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「まさきせんぱい…?」
「陽大…ちょっとじっとしてて」
戸惑っている合間に、ずっと繋がっていた手が離れ。
「ふ、ぇっ?せ、せんぱい!そこ、は」
とても声は続けられず、ただでさえ人に触れられたことがない身体中でも、最も触られないであろう下腹部に伸びてきた手に大きく身じろいだ。
溜まっていた熱が外気に触れて、改めて実感した。
俺の意思とは無関係に、勝手に逆上せていた身体のこと。
乳幼児の頃はとにかく、家族でも触れないところ、恋人じゃない限り先ず他人は触れないであろうところに、躊躇いもなく触れられて。
はっとなった。
柾先輩は俺の何だろう、どういうおつもりでいらっしゃるんだろう。
見ていられなくて背けた視界には、ぼんやりと濃紺のベッドカバーが映っている。
こんなことが、俺の身の上に起きているなんて。
想像だにできなかった。
昨日までずっと、先輩と俺の未来の姿なんて浮かびもしなかった。
今だって変わらない。
「ひぁっ?!え、やっ…?う、そ…」
思考はあられもない水音にかき乱され、また波間に呑みこまれていく。
今度はどう抗いようもない、怒濤の狭間に落ちていく。
たまらなくて、がっしりした温かい肩に顔を埋める。
また繋がった片手を頼りに、必死に縋りつく。
ぎゅっと目を閉じて、競り上がってくる味わったことのない感覚に流されまいと堪えても。
確かに見た光景と、聞こえ続ける激しさを増す水音が、リアルに瞼の裏で再生し続ける。
柾先輩の大きな手が、俺の、と、先輩のを合わせて握りこみ、動かしている。
「ぃやっ…あつ、い…っんっ」
しかも、先輩のは、経験の乏しい俺でもわかる。
初心者の俺では手に負えない、とても近い年の子供とは想えないもので、状態で。
武士道がふざけたり、学校行事で同級生のを何となく目にした限り、お目にかかったことのない代物で。
何となくそうだろうなとは想像もついていたけれど。
ここまでとは誰も想わないのではないか。
それ自体が高熱を発しているかのように熱くて、とんでもなく硬く緊張して、とにかく何もかもが俺のとはまったく違う。
どこまで完全無敵なのだろう、この人は。
それなのに一緒にされて、擦り合わされて、いろいろな刺激を受けて。
俺ははしたなくも、目から星が飛び散りそうになりながら、こんなの初めてで、どうにかなりそうで。
「やだぁ…っせんぱ、いっ…」
こんな俺は嫌がられる。
嫌われるに決まっている。
嫌だ嫌だと言いながら、感じているのは明白で。
柾先輩は怖くないけれど、この人にだけは嫌われたくない、それが怖いと想った。
「はる…っ、大丈夫…」
「あ、んぅっ」
深いキスに、ますます溶かされていく。
とろとろに、いっそ溶けてなくなってしまえばいい。
何の未練もなく。
呼吸さえ食べられそうなキスの後、ぺろっと唇を舐められて、目を上げたら、眉を顰めてどこか切羽詰まった様子の、壮絶な男前さんと視線が合った。
「陽大、好きだ」
こんな時に、どうして。
熱い勢いは緩やかな動きに変わっていた。
「すげえ好き…」
艶やかな微笑と、掠れた低い声のほんとうの響きに、何故か安堵する。
柾先輩のこめかみから伝う汗に、想わず手を伸ばしたら、その手にくちづけられた。
「俺ももうイクから、はるも遠慮すんな」
「えっ、…っぁ」
それからはほんの一瞬で。
急に緩急を増した動きに、つられるようにガクガクしながら、先輩の手の中で堪え切れずに達してしまった。
ふるふるっと肩にもたれたまま、余韻に震えている時に悟った。
先輩も一緒に…?
大きな手の中に放たれた熱は、俺ひとりのものじゃない量を感じさせた。
何だかよくわからないままに、泣きそうになった。
しばらく温かい身体にもたれたまま、お互い、息を整えるようにその姿勢でいた。
背中をあやすように撫でてくれる、しっとりと汗ばんだ手が心地いい。
人肌はこんなにも温かくて、安心するものだったんだ。
このまま眠れそうだと、すっかり油断していた。
ベッドに転がされるまでは。
「へっ」
ころんっと寝転がされ、間を空けず背中から抱きしめられる。
これは昨夜の寝る態勢だと、まだ油断している俺は、柾先輩もおネムなのかと想った。
腰の辺りに熱くて硬いものが触れるまで。
「んー…足んねえわ。陽大が可愛すぎて」
「え゛っ!あ、あのっ?!」
「このままじっとして、脚閉じてて…陽大は動かなくて良いから」
「えええっ」
そう仰っておられる間に、あ、脚のっ、脚の隙間に、ま、柾先輩のっ!!
2014.8.3(sun)22:24筆[ 683/761 ][*prev] [next#]
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