64
これは何のネタ、何のご冗談なんでしょうか?!
「陽大、」
「いやいやいやいや、ちょーっとお待ちくださいませ?」
近づく男前顔に驚きおののき、最大限にベッドヘッドに背を預けながら、両手でどうにか阻止しようと試みる。
嘘だ。
こんなの、だって昨日はあんなに平和だったのに。
慌てふためきながら、沸騰寸前の思考回路を何とか総動員して、打開策を練ろうとする。
けれども、両手をやんわり取られて、距離を詰められたらパニックが増すばかりで。
「ちょっ、ちょちょっとお待ちを!ま、柾先輩…目ん玉ついておられますか?!」
「あ?ご覧の通りですが。見る?」
んなっ!
おでこにこつんと知性をふんだんに備えておられる額が当たって、目の前いっぱいに溢れるイケメンパラダイス。
いつより熱を帯びて、キラキラよりももっと凄みのある、ギラギラした瞳に直視されるたら固まるしかない。
まっすぐな眼差しの強さは、こんな時により強調されて、逃げ場なんてなくてずるい。
「あ、あのっ…俺ですよ…?」
「ん?んー。陽大だよね」
「いやいやいやいや、だから俺ですよ?失礼ながらっ、ちゃんと見えておられますか?こ、こんなちんちくりんな俺など、ほんとうに何故!意味がわかりませんっ」
先輩はきょとんとした後、はぁとため息を吐かれた。
おっと、ようやく目が覚めましたか。
うんうん、きっとこんな寒い朝にジョギングされた所為で、感覚が鈍っておしまいになられたのですね。
俺は責めませんとも。
人間ですから過ちや気の迷いはありますからね、いかに完全無欠な男前の柾先輩と言えども致し方ございません。
1人で自虐的に満足して頷いていたら。
「んんっ…?!」
ぱくっと。
唇を食べられた。
「意味わかんねえのはこっちだっつの。俺の陽大に失礼な事言うなよ。例え本人でも許せねえなぁ。昨日から陽大はのほほんとしてるし、探検にばっか気ぃ取られてるし?すっげえ我慢してたのに、急に意識されて平静保てるかっつーの。お前、さっきからどんな顔してるか自覚ねえだろ」
むにっと頬を優しくつままれる。
上気した頬に、上気した指が触れて、あったかすぎて胸がぎゅっとなった。
「そ、そんなの存じ上げませんと言うかっ、俺はのほほんとなどっ…ひ、人がどれだけ緊張してるかとか…先輩こそまったり自由になさっておられるくせに!」
「んー?何かわかった。お互い緊張誤摩化す為にのんびり装ってたんだなー」
なんですと。
俺の心労はこれ如何に!
柾先輩がふわっと微笑う。
「俺の部屋に陽大が居るのに意識しない訳ねえだろ。初日に手ぇ出すのも節度ないかなーと想ったし。けど、2日目だからいっか」
いっかって。
ハートマークがつきそうな語尾で笑うなり、大きな手で抱き寄せられた。
「だいじょーぶ。いきなり最後までシないから」
なんですとー!!
「お、おおお」
「おおお?」
「お、俺は見ておわかりの通り、まったくの初心者でございますからっ、先輩のお気に召すかどうか、何が何やらさっぱりわからないんですっ」
「よしよし。大丈夫大丈夫。陽大が嫌になったらすぐ止めるから。俺は陽大様にベタ惚れですのでお気に召しまくりでございます」
語尾に逐一、ハートマークをつけないでいただきたい!
2014.8.3(sun)15:51筆[ 681/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -