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俺に今、一体何が起こっているのでしょうか。
息、息すらもうまくできない。
どうやって立っているのか、立っていないのかもわからない。
とにかく大混乱中。
ゲリラ豪雨に想いっきり大当たり、どしゃ降られた。
例えるならそんな印象だ。
「ふ…ぅっ…ん、んっ…」
なんだかわからないままに、苦しい。
苦しいけど、熱くて。
とんでもなく俺の身の丈に合っていない、大人っぽいことをしているんだって。
うっすらわかったのは、それだけ。
ただ豪雨が通り過ぎるのを待つばかり、こんな苦しい雨宿りなんてないだろうけれど。
泣きたいわけじゃないのに、勝手に滲んでくる涙を感じた。
俺が俺じゃなくなるような、どこか遠くの波間へさらわれるように流されていく感覚。
プールじゃない、海の真ん中で何かに頼る術もなく、体力の許すままに立ち泳ぎしているような、頼りない浮遊感だ。
身体中が、どんどん熱を帯びてくる。
特に熱く感じるところは、柾先輩が触れているところだろうか。
そう意識すると、ますます熱くなった。
真冬なのに、1人で夏みたいだ。
俺1人だけ、夏だなんて。
どうしようもなく寂しい気持ちになったところで、やっと、唇が離れて。
そのまま、途方もない時間を経て立っているような巨木に縋るようにもたれかかりながら、自由に空気を得たことで、実感してしまった。
し、舌が?!
ぐるぐる回る目のままに、思考もぐるぐる回転している。
口の中が、感触が、残る熱が、ほんとうに今起こったことだと知らせてくる。
そんなお知らせ要らないのに。
何でこんなことになったんだろう。
どうして、柾先輩は。
ふらふらしながら先輩を想った途端、我に返った。
そうっと視線を落とすと、人肌があって、近くで見ても見事な腹筋があって、キラリと光るへそピアスがあって。
俺の手で縋っている位置を見れば、逞しい二の腕があって、巨木なんかじゃない、人の温かさに反り返りそうになった。
すかさず支えてくださる手に、更に全身が沸騰しそうになる。
態勢を整えてくれたことで、想わず目線が上がってしまって、心臓までも沸騰しそうに大きく鳴った。
いつもの余裕たっぷりなイケメン男前顔だろうと高を括っていた。
こんなの予想外だ。
いつになく切羽詰まったような、それでいていつより強い瞳の光を宿し、お熱でもあるかのように潤んでいる。
濡れた唇まで目の当たりにし、俺は身体の内外すべて沸騰して茹だってしまう運命なんだと達観の域にたどり着いた。
この豊かな男気、色気を、何故ちっぽけな俺などの前で放出していらっしゃるのだろう。
俺では対応できないのに。
ふと、じっと視線を合わせていた先輩が、眉を顰めた。
男前は眉を顰めた渋面すら男前で、加えて今の先輩は色気までたっぷりサービス中だと、こんな時でも心の男前メモは働きものだった。
「…やべぇ…」
はい?
声すら出ない、首も傾げられない俺は、ぼうっとしているしかできなかった。
次の瞬間まで。
「ちょ、なっ?!」
いきなり抱え上げられた。
夏の体育祭を想い出し、あれは競技だからと慌てて打ち消す。
打ち消す合間に、柾先輩はまるで障害物2人3脚の予行演習とでも言わんばかり、俺を抱えたまま俊敏に室内を早足で横切り、階段まで上ろうとしておられる?!
ちょっと待って!!
この御殿の中で階段があるエリアは、俺が少しだけ探検した中では、し、寝室代わりにご使用なさっておられるロフトだけなんですけれども、まさか!!
「ちょおっとお待ちください、先輩っ、ちょ、ちょっと1度下ろしていただきたいで候」
まさか、バカな。
そんな、だって昨夜は何ごともなく平和に眠りに就いたではありませんか。
寝よう寝ようっておネムさんで、率先なさったのは先輩だったのに。
柾先輩だって、相手が俺だということはわかっておいでというか、俺のことを好いてくださっている意味も、やっぱり面白宴会要員とか、弟とか、そういう意味合いなのかなって。
想っている間にぽすっとベッドに下ろされ、いよいよ青くなった。
ずざあっと後ずさったら、ベッドの頭で、位置を間違えたと後悔するも、逃げ場のない俺に熱っぽいお顔のままの柾先輩の影がかかる。
2014.8.2(sat)22:54筆[ 680/761 ][*prev] [next#]
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