16.いきなりラスボスも登場!
十八さんが舞台を去ってから、しんとなった会場内。
十分な余韻を残した後、再びアナウンスの声が流れた。
「十八理事長より祝辞を賜りました。有り難うございました。
ゴホンっ。
………それでは引き続き、在校生より祝辞を頂きます。在校生代表、第100期生徒会会長、新2学年A組、柾昴(まさき・こう)」
「「「ぎゃああああああああっ!!」」」
ぎ…?!
ぎゃ、ぎゃー…!!!!!!
今度はタイミング合わせて、耳をガードしたのに…!
それにも関わらず、さっきと比較にならない大歓声…と言うか、砲声と言うか、大声大会と言うか、もはや人間の声じゃない、夜明けの動物園と言うか…
ものすごい爆音、一瞬であちこちに火がついた興奮、そんな勢いに背後から(横からも)押されて、俺は、俺も内心叫びながら、まっすぐに立っていられずよろめいた。
と言うか、実際に押されていた。
それまできちんとクラス毎に並んでいた生徒さん方、ほとんど皆さんが舞台を目指して前進を決行していらっしゃったから。
あまりの熱気にブレる視界の中、いつの間に準備なさっておられたのか…
にわか警備員と化した先生方が、A組の列より前に生徒さんが行かないように、柵を立て、身を張ってその強大な流れを止めようと奮闘しておられるのが見えた。
とにかき、大変な騒ぎ!
あちらこちらから、もみくちゃにされながら。
「新入生一同!静かにしなさい!速やかに自分のクラスの列へ戻りなさい!!」
アナウンスの険しい声は、恐らくどなたさまの耳にも届いていないだろう。
警備している先生方も、しきりに注意を促しているけれど、誰の声もよく聞こえない。
歓声や砲声が、いつまでも鳴り止まない、騒ぎはますます大きくなるばかりだった。
「「「柾様〜!!!!!」」」
「「「昴様〜!!!!!」」」
「「「生徒会長様〜!!!!!」」」
生徒さん方の鮮やかな声の中。
「やっとお逢いできるんですね…!!1年、長かったです…!!」
隣のあいはらさんが、潤んだ瞳を、壇上へ一心に向けているのを見つけて。
その、1人の人を想う、真剣で強い熱に焦がれた横顔に、胸を掴まれた。
こんな騒ぎを引き起こすなんて、一体、どんな御方なんだろう…?
「――…静かにしろ、新入生」
急に、響いた、低い声。
マイクを通じて、低く静かに響き渡る。
声量はきっと、大して出ていないのに。
会場内は、一瞬で、水を打ったように静まり返った。
耳障りの良い声、だからこそ、誰もが耳を傾けたのか。
耳を通って、心地良く身体を通り抜けて行く、1度聞いたら忘れられない印象深さのある声…
決して、優しくないのに。
決して、感情は隠っていないのに。
威圧、される。
静まった会場内に、コツコツと刻まれた、新たな音。
一定のリズムで放たれた、これまた耳心地の良い音は、スマートに壇上の中央で止まった。
なんの音かと想ったら、学校指定のローファーが奏でていた靴音で。
ほんとうに同じ靴なのかと、想わず、疑う程で。
その靴の先を、淡々とたどって行ったら。
視線が、合った。
合ったように、感じた。
勝手な憶測だ。
これだけの広い建物内、これだけたくさんの人がいる中、いくら距離が近いからって、個人的に目が合う確率なんて有り得ない程に少ない。
俺の勘違いだろう。
壇上に立って、ゆっくりと視線を巡らせる、それは自然な動作だ。
その過程で、たまたま目が合ったように感じただけだ。
だけど。
目が、離せない。
強い、まっすぐな、瞳。
僅かに茶色味を帯びた、くっきりと意思の感じられる、光の宿った瞳。
なにもかもを見透かしているような、天辺に立つ、百獣の王の眼差しだ。
気高い誇り、確かな未来、今立っている現実を見据えた、陰陽を知り抱き込むことができる、大人びた表情。
目には、魂が宿ると言う。
まさに、並々ならぬ精神を有する目。
光の加減で、藍にも深緑にも見える、計算されているのか、無造作ながら艶のある黒髪とか。
男らしくシャープな輪郭の中に収まる、完璧なバランスで配置された凛々しい眉や、遠目からでも窺える長い睫毛、高い鼻筋、程よくふくよかで口角の上がった唇とか。
一応の体裁上、といった気配で、若干ラフに着崩された制服から覗く、適度に日焼けした健康的な肌とか。
びっくりする背の高さと腰の位置、絶妙な手脚の長さとか。
マイクを掴んだ、まるで大人のように武骨な、長い指を有した大きな手とか。
彼を引き立てる為だけに生まれたのだと言わんばかりの、シルバーのアクセサリーの数々とか。
彼を形成し彩るすべての要素、それよりも何よりも、俺はただ、その瞳に釘付けになっていた。
2010-06-18 23:24筆[ 68/761 ][*prev] [next#]
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