56
何故こんなごちそうがさらっと出てくるのか。
流石はお宝ザクザクのお洒落御殿!
しかもポンっとアイスクリームの傍らに置いてあるスプーン、ネットで一目惚れしてブックマークしている、いつか欲しいと想っていた、アイスクリーム専用のスプーンですよね?!
まさかここでお目にかかれるとは、何て贅沢なことでしょう。
あわわと震える手で無事にゲット、恐る恐る後ろを振り返る。
「ほんとうに、いただいてもよろしいのでしょうか…?」
「どうぞー。つーか、お宝ザクザクのお洒落御殿って何」
「…何でもございません。柾先輩には関係のないことでございますので、どうぞお気になさらず。では、お言葉に甘えて頂戴いたします」
危ない危ない!
心の声が聞こえるなんて、男前スキルの幅広さは恐ろしいですねぇ。
「全部声に出てたけどな、陽大」
「はい?何か仰られました」
「いいえ?どうぞ召し上がれー」
「???変な先輩ですねぇ。では慎んでいただきます」
あらかじめ口にしなくてもわかっている、とっても美味しい極上品を、憧れのカトラリーでいただけるなんて。
お風呂も入って、ごはんも食べて、ソファーは最高の座り心地で、背中というかすっぽりと上半身ポカポカで、ご機嫌にならざるを得ない充足感でいっぱい!
「んー…やっぱり美味しいー…と言うか、前より美味しい気がするー…バニラ味がより濃厚でバニラビーンズたっぷりで贅沢ー…」
「そりゃ良かった。ちょこちょこ改良中だからな。前っていつ食った?」
「春先すぐですー…」
「そっか。今のが美味い?」
こくこく頷いて、早くも2口目に突入しようと、ウキウキとスプーンを入れて我に返った。
背中というかすっぽりと上半身ポカポカ?
何故?
確かに冬場ですからね、お風呂もいただいた後ですし、冷えないようにモコモコ起毛素材が裏地についたスエットのパーカーを着用しています。
中のTシャツもルームパンツもフリース素材ですよ。
ぬくぬくの分厚い毛糸の靴下まで履いて、防寒対策バッチリですとも。
それにプラスされた、このポカポカはどこからくるのか。
手に持ったアイスクリームから、視線を落として、俺のものではないがっしりした腕が腰に絡まっているのが目に入った。
いえ、薄々わかっていましたけれども。
慣れてるっちゃあ慣れてるものでしてね。
武士道も秀平たちもやんちゃ盛りの甘えたさん揃い、すぐ引っついてくるし、ソファーに座っていたら空いてるのにぎゅうぎゅうになるし。
けれども俺はいつ極上のソファーから、ま、柾先輩の膝の上にワープしたんでしょうか?
そもそも人見知り気味でしてね。
どなたさまがお相手でも、いきなり距離を詰めることはできなくて、あの子たちとスキンシップできるようになるのに時間を要したものです。
皆さん、それを察してくださって、俺のパーソナルスペースの広さがゆっくり縮まるのを待ってくださり、感謝感激雨霰。
この御方は一体、お台所でもそうでしたけれども、この距離感の近さは一体何ぞや。
いきなり近すぎるでしょう。
しかも、人の気も知らないで、何故こんな無謀なことを。
「あ、あのう…ちょ、っと…近すぎると言うか、アイス時間で忙しいと言うか…いえ、わかってるんですよ?先輩もこのソファーさまの端っこがお気に入りなんでしょう?もちろんお譲りいたしますから、ちょ、っと離していただけないものかと…」
振り返ることはできずに、アイスクリームを見つめたまま告げた。
その通り、端っこが好きだから退いて!とか、わかったとか何とか、この御方のこざっぱりした性格上、すぐ引いてくれるだろうと。
期待とは裏腹に、ますますぎゅうっと抱きしめられて、危うくアイスクリームを引っくり返しそうになった。
ポカポカ増量!
2014.7.27(sun)17:39筆[ 673/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -