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なったのだが、しかし。
「陽大、後はー?」
「え、ええと、柾先輩には最後に重大なお役目をぜひとも受けていただきたく存じます。俺のしがない料理で誠に恐縮ですが、いかにも素敵なこちらのお皿コレクションからセレクトして、盛りつけていただけないものかと我願う」
「承知仕ったで候」
「ははー!よろしくお願い致すで候」
「苦しゅうない、苦しゅうない。楽にしてたもれ」
お料理は仕上がったで候。
後は盛り付けと、この温め返し中の野菜入りお出汁に、味噌を溶き入れたら完成でござる。
しかしながら。
吹きこぼさないように火加減と、お鍋の様子に気をつけながら、横目でちらっと鼻歌混じりの先輩を窺う。
窺ってのけぞりそうになった、俺がちょっと目を離したスキに、もうお皿のセレクトも盛り付けも終わろうとしているばかりか、あの手つき!
メイン料理の上に小口切りしたネギを散らす、あの絶妙な加減と手つき!
見事としか言いようがない。
鼻歌混じりながら盛り付けに向かう時、一瞬、鋭い眼差しになって集中しているのも、あなた一体何者ですかと是が非でも問い質したいところだ。
うぬぅ、かなりの手練とお見受けした!
さっきまであんなにも、武士道や秀平たちのほうが大人だと想えるぐらい、ベタベタ引っつき回る甘えたさんだったのに、何でしょうこのギャップ。
さっと火を止めて、味噌を溶き入れながら首を捻る。
ふーむ?
元より美味しいアレンジコーヒーをチョチョイのチョイっと作れる先輩だ。
器用そうでいらっしゃる大きな手と長い指が見せかけじゃないこと、生徒会でご一緒してから度々実感している。
お弁当シフトの度に、すぐ実践できるアイデアやご意見をくださるのは柾先輩だけだ。
宝の山御殿の秘宝館の一角、蔵書部屋には結構な数の料理本も存在していた。
「柾先輩、」
「あ〜腹減った〜!手伝ったから倍増しで腹減った。もう持ってって良い?」
「はい、どうぞ。お願いいたします」
まあ、後でじっくり、いえ食べながらでもじっくり、お話聞かせていただこうじゃありませんか、ふふふ。
大きな1枚板の、アンティークのように使いこまれた、風合い漂うダイニングテーブルへ向かう先輩の後に続いて、更に俺は目を見張った。
テーブルの上を拭いて、テーブルセンターを敷いて、トレイに用意したお皿やお箸を次々と並べていく。
自主的にできる子、初めて見た!
しかも、手際がいい!
澱みなく流れるような動作は、テキパキしていて爽快だ。
しかもしかも、ちゃんとテーブルの縁まで拭いたのを見逃しませんでしたよ、俺は。
お仕事前後の片づけやお掃除、食事やお茶の後など、生徒会で率先して動かれている姿を知っていたけれど。
並べられたお皿の数々も流石お洒落イケメン、盛り付けもセレクトも完璧で、素晴らしいの一言しか出ない。
こんなに何から何までお手伝いできる子、いい意味で期待を裏切る子なんて初めて!
と言うか、寧ろ弟子入りさせていただきたい勢いなのですが!
俺が感嘆している間に、柾先輩は黙々と往復して、すっかりテーブルの用意を整えてくださった。
「食べよー」
早い!
よくよく想い返せば、旭先輩と3人でいた時、食堂以上に素晴らしいランチの用意をしてくださったのも、柾先輩だったっけ。
「食べ…って、何故、隣同士…」
「ん?向かい合わせのが良かった?」
向かい合わせで、柾先輩と俺がごはん。
「いえ、このままで結構でございます」
2人っきりで、御殿の中で、こんな大テーブルで向かい合うなんて、距離感もおかしいし緊張し過ぎておかしくなりそうだ。
隣同士も距離感近いけれども、如何様にも変化する危険な瞳と対峙しながら食事するなんて無理でございます。
それにしても意外な程、先輩ったらくっつきたがりの甘えたさんなのか。
手を引かれて、ちょっとドキッとしながら座って、「「いただきます」」と声を合わせた。
今夜はれんこん入りのシャキシャキ鶏つくねステーキをメインに、白菜と海老の中華風煮込みあんかけ、いろいろ茹で野菜と豆腐のサラダ、かぶのお味噌汁、かぶとじゃこのゴマ油炒めですよ。
いつもの俺ごはんが、先輩の魔法の手に因って魅力倍増、とっても凝ったお洒落なごちそうに見える。
お皿も盛り付けもとっても大切だって、改めて実感するできばえだ。
「うっまー蕪の季節だねー味噌汁うっまー」
常と変わらずいい食べっぷりに見惚れつつ、かぶの季節だねって、食材の旬をご存知なところも料理初心者ではない現れだ。
「…柾先輩って、前から想ってましたけど…やっぱりお料理好きで得意なんでしょう?だって妙に慣れてらっしゃいますもの」
早くもおかわりに突入しそうな先輩を見上げると、きょとーん顔が返ってきた。
「そういうんじゃねえけど。家の手伝いしてるからそう見えんじゃね。はー…しっかし久々にまともな晩メシーおかわりー」
なんですと?
「久々にまともな晩メシ」って、最近どうなさっておられたのか。
はいはいと応えて、ごはんをよそって手渡すと、それは嬉しそうにお礼を言われた。
よほど腹ぺこさんで、お部屋で晩ごはんを召し上がるのも久しぶりなんでしょうか。
ほんとうにいつも美味しそうに召し上がってくださって、ためになる感想をくださるから、こちらとしても作り甲斐がある。
ふーむ。
ごはんの仕度が手慣れていらっしゃるのは、ご実家で厳しく躾けられてお育ちになった賜物ということでしょうか。
食事面に特化しておられるということなのかな。
食べることを大切になさっておられるご家庭なのだろう。
それにごはん時だけじゃなく、柾先輩の所作はいつもお見事で、勉強になるものね。
お噂以上にものすごいお家なんだろうなぁ。
2014.7.24(thu)23:18筆[ 671/761 ][*prev] [next#]
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