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 以前お邪魔した時は、サプライズで驚いていて、たくさんの方がいらっしゃったから、玄関の広さばかり印象に残ったんだっけ。
 どどーんと目の前に広がる巨大なリビングというか、落ち着いた色合いのお洒落空間に、パチパチと瞬きを繰り返す。
 「でっかいどー」
 ぼそりと呟けば、隣で笑い声が起こる。
 「無駄にでっかいよなー1人で持て余すっつーの」

 むむ?
 柾先輩でもそんな風に想われるのか。
 けれどもこの巨大お洒落空間、とってもお似合いですよ。
 うーん、何でしょう。
 確かにすごくお洒落で、ところどころデザイン家電や家具とかお見受けするけれども、落ち着いた印象を受ける。
 不思議とリラックスできそうなのは、色合いのせい?

 ほのかに生成りがかった穏やかな色合いの、どこまでも広い天井と壁、観葉植物が全体の基調になっているのか。
 黒やダークブラウン、インディゴブルー、白、ベージュ、グレイ、サックスブルー、モスグリーン、ネイビー、無地の他にもストライプやチェック、いろいろな色柄が使われているのにうるさくなく調和している。
 モデルルームのように、高級ホテルのように洗練されていながら、暮らしが見える。

 ものすごく忙しい御方なのに、ちゃんとここで寝起きし食事されている気配を感じる。
 部屋が冷たくない。
 とびきりお洒落なのに、よそいきのお澄まし顔をしていない。
 シャープで格好いい家具や雑貨で構成されているのに、どうしてだろう。
 程よく片づいていながら、程よく乱れているから?
 
 メインテーブルのコーナーだろうか。
 座り心地のよさそうな、飴色をした革張りのソファーには、裾が切りっ放しの黒い麻のファブリックがかかり、あったかそうな起毛素材のカバーに包まれた色とりどりのクッションが並べられ、ほわほわした雰囲気のブランケット(カシミヤ?!)が無造作に置かれている。
 雑誌や本が数冊広げられていて、ここでのんびり寛いでおられる姿が想像できる。
 お昼寝にもよさそうだ、柾先輩の高身長にも耐え得る大きさだもの。

 そんな具合いにどこもかしこも、居心地よさそうにまとめられていて、ひとつひとつの場所にちゃんと役割があるようだった。
 きょときょと見渡していたら、柾先輩の笑い声が聞こえた。
 あら、いつの間にブレザーを脱がれたのでしょう。
 「陽大、コートとマフラー貸して。探検してもいーけど」
 俺ったら、まだがっちり防寒態勢でしたと脱ぎながら、天の声を聞き逃しはしません。

 「え、マジですか?!」
 「ふはっ、そんなキラキラすんなよ。んー、好きな様に見て回ったら良い。けど、携帯持参でな。外は極寒だからベランダには出るなよ。風邪引く」
 「携帯持参?」
 「マジでバカっ広いから。俺1人だし、各部屋に内線なんか付けてねえ。ロフトだのクローゼットだの物置きだの、部屋同等で存在してて、探すのひと苦労だから」
 
 なんと!!
 こちらはひとつの迷宮、大秘境なんですね?
 これは心してかからねばなりませぬ。
 探検魂が燃え上がったところで、これまたオシャンティーなコートハンガーに服をかけてくださった後、柾先輩が伸びをした。
 「陽大が探検中、俺も風呂入ってこよっかなー」
 
 お風呂も最早プールなんでしょうか。
 なんたってこの巨大な特寮の1フロア丸々半分が、柾先輩のお部屋なんですものね。
 うんうんと1人で頷いていたら、適当に過ごしてなと言い置いて頭を撫でられた。
 いずこかへ向かおうとする先輩のシャツを、想わず掴む。
 「ん?一緒に入る?」
 なんですって!!

 「いえ、結構!」
 「男前な断り方だな。そこはキッパリ否定すんのな」
 「ええ。柾先輩、そんなことよりも」
 「そんなことって。酷ぇ、陽大」
 「遊んでる場合じゃございません。あの、ごはん食べますか。どうされますか。ひょっとしてもう召し上がられました?」

 「まさか。18時過ぎじゃん」
 「まだ召し上がらないですか?」
 「陽大、もしかして何か作ってくれてんの」
 こくりと頷いたら、先輩がそれは嬉しそうなお顔になって、折角忘れていたのに、また頬に熱が戻ってきた。
 「食う。腹減ってるし」

 よかった、と想った。
 ご迷惑になったらどうしようかと、迷いながら用意してきた。
 よかった。
 「では探検を進めつつ、ごはんの仕度をさせていただきます」
 「よろしくお願いいたします」
 「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。あ、先輩、お台所拝借してもよろしいでしょうか」

 無事に了解を得て、気合いを入れる。
 お風呂場方面へ去って行かれる背中をお見送りしてから、いざ参らん!
 家主さまが同行されないのですから、失礼のないように、ちゃちゃちゃーと拝見させていただいて、ちゃちゃちゃーとごはんにしましょうねぇ。
 こちらのソファーにも座らせていただきたいですしね!
 マロンさまブロマイドの所在も確認しなくてはなりませぬ、さぁ大忙しだ。



 2014.7.21(mon)23:01筆


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