47.長くもがなと


 見上げた顔はきょとんとしてすぐ、目を細めて微笑ってくれた。
 胸がぎゅうっと痛くなった。
 優しさに甘えているばかりじゃなくて、俺だってちゃんと。
 気持ちを伝えてくださった皆さんや、心配してくださっている皆さんのように、まっすぐ立っていたい。
 たぶん、間違っている。

 俺が言おうとしていることは、三角のおまけ点数もいただけないぐらい、完全に間違っているだろうけれど。
 何がどうなっても止められない。
 大丈夫、いつだって忘れなきゃと覚悟してきた。
 1度だけ、正直に伝えたい。
 どんな結果が待っていても、今だけ、ほんとうの想いを。


 「柾先輩のことが、好きです」

 
 驚きで見開かれる瞳には、さっきより更にひどい顔になった俺が映っている。
 「マジで」
 ぽつりと呟かれた言葉に、こくこくと何度も頷いた。
 どうにかしようと目元を拭おうとした手を止められ、温かい指がぎこちなく触れる。
 「マジか…両片思い?」
 されるがままになっていた、心臓だけが騒いでいた、時が止まる。
 「はい…?」

 想わず聞き返したら、何故かドヤ顔の先輩がいらっしゃった。
 「俺のが陽大のこと、好きだから」
 なんですって?!
 「何を根拠にそのような…ちゃんちゃらおかしいです。俺のほうが好きですよ!」 
 「あ?俺だっての」
 「先輩なんか何もご存知ないくせに!」
 「陽大だって何も知らねえだろ!」

 ぐぬぬと視線が絡み合う。
 「俺…、俺が今までどんな想いで…」
 「俺なんか一目惚れだっつの」
 「はい?!そんな、そんなの知りませんよ!適当なこと言わないでくださいっ」
 「違ぇし!入学式で見かけた時から『七五三が居る』って気になってたっつの」
 「やっぱり小バカにしているというか、いつも面白がってばかりじゃないですか!」

 「だからそれはいつも言ってんだろ?!面白くて可愛いって」
 「ほら、やっぱり面白いが前提じゃないですか!どうせ俺など宴会要員ですよね!」
 「あぁ?!『面白い』が飾りで『可愛い』がメインだっつの!」
 両者1歩も譲らず!
 肩で息をする言い争いに、やっと我に返った。
 柾先輩が息を整えながら、笑い始める。
 「ふはっ…ははっ!何やってんだ、俺ら」

 笑顔が、近い。
 こんな近くで見つめていられること、気づけばずっとこの距離でこの体勢でいたこと、改めて実感すると急に頬が熱くなった。
 先輩の腕に引き寄せられ、距離が更に縮まる。
 あったかい、けれどいきなり訪れた緊張感で強張る頬に、手が添えられる。
 壊れものに触れるように、慎重で優しい。

 
 「陽大が好きだ。ずっと俺の側に居て欲しい。俺がお前を守るから、お前は俺を守ってくれ」


 対等だ。
 守られるばかりじゃなくて、俺は俺のできることで隣に並んでいたかった。
 ずっと、誰の側にいてもそんな風に望んで、だけど守られてばかりで。
 柾先輩は、対等な関係を望んでくれた。
 「はい!」
 嬉しくても涙は出る。
 嬉しい程に込み上げてくるものなのだと、抱きしめられた腕の中で頬を緩ませて想った。

 額にそっと、柾先輩の唇が触れる。
 夕方の空いっぱいの花火が想い浮かんで、熱が出そうに居たたまれない恥ずかしさを押し隠すように、ぼそりと非難した。
 「…また、『なんとなく』ですか?」
 キラキラ光る瞳が、鼻先が触れそうな位置でやわらかく否定する。
 「違う。あの時はそう言っただけで、気持ちがないとしない」
 
 きっぱり即答ですか。
 そうですか。
 胸の内で花火が打ち上げられているような騒ぎを感じながら、唇に触れるぬくもりに、ぎゅっと目を閉じた。



 2014.7.20(sun)22:11筆


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