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 いつの間にか、ソファーの端っこに追い詰められていた。
 冗談なんかじゃない、いつものじゃれ合いでもない。
 見上げた一成は、とても静かな表情をしていて、目だけがキラリと光っていた。
 見える熱量に、息を呑む。
 「…一、成…?」
 震える声で呼びかけると、一成の口角が緩んで空気が揺らいだ。
 それでも離してもらえるわけではなくて。

 いや、俺に突っぱねて逃げる力がない。
 重たい目元に、みるみる内に熱い塊が込み上げてくるのがわかる。
 一成が仕組んだって、どういうこと?
 本気だって、それはわかる、美山さんもひーちゃんも決してふざけてなんかいなかった、とても真摯でまっすぐだった。
 でも、仕組んだって、何?

 「あーあ〜はるるにそんな顔させたいわけじゃなかったんだけどな〜」
 ふうっと息を吐いて、一成の端正な顔が目の前に近づいてきた。
 目を見開いていることしかできなかった。
 唇に触れる熱と、頬に触れた銀色に染まった髪に目を奪われたまま、水音が遠くから響いてきたように聞こえた。
 ぼろっと、堪える間もなく涙が零れ落ちる。

 目の前にいるのは一成なのに、どうして俺はいつまでも、暑かった初夏の夕方、空に咲いた花火の記憶ばかりなんだろう。
 困り顔で俺の涙を指に受けながら、一成は微笑った。
 とても哀しい笑顔だと、そう感じて、ますます涙が溢れた。
 「はるるをちゃんと守りたかった」
 あやすような優しい声と、優しい手が頭を撫でる。

 「俺はそれなりにケンカしてきたし〜遊んでもきたし〜ココも長いからね〜。いろいろ見てきたから〜はるるがどんなに傷ついたか、その重みがわかった。ずっとはるるだけは守るって頑張ってたつもりなんだけど〜何せ惚れてますから〜。けど武士道だけでも面子揃ってんのに、なんで上手く守れないんだろ〜って、すげー考えて〜ちゃんとはるるの事を好きなヤツが正面立たないと無理なんじゃねーのって想ったんだよね〜」

 一成の気持ちが伝わってきて。
 鼓動が痛い。
 こんなに優しい、強く想ってくれていること、俺は今まで何も知らなくて。
 自分のことばかりで。
 「誰でも良いワケない、勿論。本気じゃないと許せないし〜ホントは告白なんて個々のタイミングでするもんだってわかってるけど〜この環境じゃ足の引っ張り合いになるからね〜。だからヘタレ共かき集めて希望募ってさ〜はるるが辛くなるのはわかってたんだけど」

 牽制し合ったり、我慢するのも限界だったって、一成が自嘲する必要はないのに。
 「ごめんね、ネタバレなんかして〜ついさっきまで内緒にする方向で居たんだけど、目ぇ腫れてるし笑ってるけど元気ないし…なんかね〜やっぱりはるるにはウソ吐きたくないなぁって想ったんだ〜俺のエゴかも知れないけど〜。あ、でもマジで美山も天谷クンも本気だからね。あのヘタレ共の中で手ぇ上げるだけの男気はわかってあげてね〜」

 ふいに、ぎゅっと抱き寄せられた。
 いつもは安心するスキンシップの一環に、硬直しているしかなかった。
 
 「いろいろ言っちゃったけど〜俺が言いたい事は1つだけ。はるるが好き。大好き。俺が守りたいって、いつも想ってた」

 顔が見えない、一成の鼓動も震えているのがわかって。
 もう終わったことのように、さっきから過去形で語られる言葉が哀しくて、哀しいと想う自分にほとほと嫌気が差した。
 「俺…俺は、皆さんに、そんな風に想ってもらえるような、」
 「はるる、そんな事言わないで。俺達が惚れた人だよ?惚れた腫れただけじゃないよ、はるるの事を人として、友達として好きなヤツ、心配してるヤツはいっぱい居るからね」
 
 震える手で、一成の背中にしがみついた。
 わけがわからないぐらい、涙が落ちてくる。
 「ごめん…っ…ごめんね、一成…ありがとう。そんな風に、いっぱい、想ってくれて…ほんとうに、ありがとう…」
 「うん…こちらこそ〜聞いてくれてありがとうね、はるる。俺はこれからも武士道と一緒にはるるを守るからね」
 
 背中を撫でる手の優しさが哀しい。
 何もかも言葉にしなくても薄々わかるような、数年間で培われた親密な友だち付き合いが、こんな時は辛い。
 それでなくても頭の回転が速い一成は、どこまでお見通しなのだろう。
 わかっていても、例えわかっていなくても、我を押し通さずにそっと手を離してくれた。
 何も知らなかった俺の浅はかさを責めることなく、側にいてくれる。

 それなのに、どうして俺は。



 2014.7.19(sat)21:55筆


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