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ただただ、ぽかーんとするしかない。
「か、一成さん?これは一体…まさかあなた、こんな早朝からルームサービスさまを利用なさったの?」
ワナワナする俺を座らせ、テキパキと隣に腰かけながら、完徹の一成さんは屈託ない。
「あ、ルームサービスのが良かった〜?和食のが良かったかな〜?洋風朝食なら俺でも作れるかも!と想って〜チャレンジしてみたんだけど〜」
「こ、これ!まさか、最初から最後まであなたが全部…?!」
開いた口が塞がらない。
どうしたって言葉が上擦る。
だってこんな見事な、しかも武士道ナンバー1のセンスの良さなだけあって、なんとオシャンティーでハイカラな!
「んー?全部っつーか〜はるるみたいにイチからパン焼いたわけじゃないしね〜正味作ったのってスクランブルエッグとサラダとスープだけだし〜言っても俺1人だからね〜やっぱりはるるが居ないとダメだよ〜」
ふわっとコーヒーの良い香りが漂って、これまたオシャンティーなケメックスからコーヒーを注いでくれながら、一成はおっとりと笑っている。
食べようと促されて、いただきますと丁重に手を合わせてから、先ずはサラダを一口。
「え、ちょ、はるる〜?不味かった〜?何かヤバい…?おっかしいな〜ちゃんと味見したんだけど〜」
アボカドとオニオンスライスとベビーリーフ、レタスとトマトに、薄切りロースハムのフレンチドレッシング添え、なんということでしょう!
どうにか一口飲み込んで、口を手で押さえたまま俯いて震える俺に、心配そうな声をかけてくれているの、ちゃんと聞こえているけれど。
なんてこったい、一成さん。
あなたときたら!
「…泣きそう…」
「えっ?!マジで〜?!はるる、ごめんね、ごめんね…そんな不味かった?!」
「違うよー!もうっ!違うよー一成さんったら、天才シェフ!いつの間にこんな…一成さんったら!」
きょとーんとする一成がまた、無欲で可愛らしい。
「1人でこんな立派な、すっごくおいしいサラダが作れるなんて…もう俺が教えることなど何もないと言うか、寧ろ弟子入りする勢いっス!」
「ええ〜?ウソ〜はるる、誉め過ぎでしょ〜大げさだよ〜」
「何を仰いますやら、一成シェフ!シンプルで工程の少ない料理にほど、出来映えや味に大差が出るものなのですよ。こんなしっかり美味しいサラダ…見た目もキレイで、下ごしらえもちゃんとできていて、温かいものと一緒に盛られているワンプレートなのに冷えていて…なかなかできることじゃありません」
照れに照れる一成さんを誉めたたえながら、楽しい朝食タイムは進んだ。
かぼちゃのポタージュもイギリス食パンのトースト具合もコーヒーも、全部完璧に美味しかった!
スクランブルエッグのとろとろ具合は、本人曰くちょっと失敗らしいけど、卵料理は難しいものね、バッチリ及第点!
ほんとうにこの子ときたら、器用だしお洒落だし、やればやるだけデキル子なんだ。
俺などが言うのもおこがましいけれど、出会った当初を想うと涙がちょちょ切れるってもんです。
美味しい美味しい朝食を堪能し、なんとお片づけまで率先してくれて、完全にただのお客さん化してしまった。
お気に入りのソファーで2杯目のカフェオレを堪能しながら、ゆっくりさせていただきつつ首を傾げた。
たまには2人でのんびり、朝ごはんを食べたいって。
今日はそう誘われた。
にぎやかなのもいいけどゆっくりしたい、夜はお互い忙しくて時間が合わないから、朝に会えるかなって。
てっきり俺が作るものだと想って来たら、まさかまさかのおもてなし、これは何のサプライズなんでしょう?
もしかしなくても、何か気遣わせてしまっているのかなぁ。
ソファーの上で膝を抱えながら困惑した。
人が作ってくれたごはん、食堂以外では久しぶりで、すごく嬉しくて美味しかった。
俺は何をお返しできるかな。
それにしても、いつもなら仁も一緒にいる筈なのに、今朝はどうしたんだろう。
?マークがいっぱい飛び交う中、洗いものを終わらせた一成が戻って来た。
「一成さん、ごちそうさまでした。片づけまでありがとう。手伝わず甘えてごめんね」
「いいえ〜どういたしまして〜今日ぐらい、はるるにはノンビリして欲しかったからね〜」
腕がくっつく距離に座る一成は、変わらずおっとり笑っているけれど。
何故だろう、少しギクっとなって後ずさりそうになった。
いつもと同じなのに、どうして。
「最近、生徒会忙しそうだもんね〜3学期も大詰めだしね〜」
「ね〜武士道も、一成たちも、3大勢力として忙しそうだね」
同調しながら違和感を感じる。
どこかぎこちない。
ついさっきまで和気あいあいとしていた空気が、前触れなく切り替わったようだ。
俺がおかしいのかな。
こんな早朝で仁がいなくて、2人っきりだから、感覚が狂うのだろうか。
「まぁね〜『俺ら』は予定調和だけど〜」
にこにこ細まっている瞳が、まっすぐに俺を見つめる。
まただ、と俺の直感が囁く。
知っている、この瞳。
キラリと光る、真剣な瞳を見るのは初めてじゃない。
一成のこんな表情は珍しいけれど、数回目だ。
俺は、知っている。
「はるる、目ぇ赤いね」
ひんやりした指先が俺の目元に触れ、びくっと肩が揺れてしまった。
一成は、微笑っている。
「予想外の出来事が続けば、そりゃー眠れないし、はるるは辛いよね〜多分泣くだろうなってわかってたんだけど〜限界だったんだよね、『俺達』も〜」
「一成…?」
何を言っているの。
「ごめんね〜はるる。美山と天谷クンの告白大会、仕組んだの俺なんだ〜あ、誤解しないでね〜当然ふざけてなんかないよ〜?『俺達』は至って本気だから。それは信じてね」
2014.7.16(wed)22:41筆[ 659/761 ][*prev] [next#]
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