36.始まりは終わり、終わりは始まり


 あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いいたします。
 「ありがとう」の次に、好きな言葉かも知れない。
 晴れがましくも清々しい、新しい1年の始まりを祝うご挨拶。
 ほんとうは毎日が新しい。
 毎日、新年を迎えているようなものだけれど。
 
 流れゆく日々の中、気をつけていても緩んでしまうのも、心の有り様だから。
 いろいろな毎日があっていいんだ。
 毎日元気いっぱいで、新鮮じゃなくてもいい。
 だから気づくこともたくさんあるし、楽しい時はより楽しくなるから。
 1月ってそんな日々の中でも、なんだか特別に感じる。
 冬のただ中、寒さもあるけれど、気が引き締まる。

 1学期2学期も大切だけれど、俺は3学期が1番姿勢を正したくなるんだ。
 飛ぶように過ぎていく数カ月間、急に暖かくなると同時に新学年を迎えると、わかっているから尚更かも知れない。
 このクラスで過ごすのも、先生方やこの教科書たちのお世話になるのもあと少し。
 ネクタイの色が変わるまでもうすぐなんだ。
 迫るお別れと、新たな出会いの板挟みに、しっかりしなくちゃと前を向く。
 無事に2年生になれますようにと、ちょっと弱気な願いを持ちつつ。

 無事に、柾先輩のことを忘れられますように、と願う度、喉が熱くなるのは気の所為だ。

 たぶん、俺はちゃんと笑えている。
 号外でも、生徒さん方にも、もう噂されなくなった。
 柾先輩の側でお仕事している時も、お弁当をいただいている時も、廊下ですれ違う時にご挨拶したり絡まれる時も、必ずどなたかが側におられて、通行中の方々もたくさんいらっしゃっる中、どなたさまも何も仰らないもの。
 先輩もお変わりないから、大丈夫じゃないのは俺だけだ。

 あとは俺次第なんだ。
 たったの2週間お会いしなかっただけで、近くでも遠くでもお姿を見かける度、心臓が騒いでぎゅうっとなるのは、冬休みに秀平としか会えなかったから、その寂しさの余波なんだ。
 うん、今年の大晦日と来年のお正月こそ、遊ぶ予定を目いっぱい入れましょうねぇ。
 いや、もしかして皆さん、高校生ともなれば恋人さんや婚約者さんがいらっしゃって、俺に構ってくださる暇などないということやも知れぬ。

 由々しき事態、いつまでも友達と遊びたい!って盛り上がってるのは俺だけ?
 武士道も皆、イケメン集団だものね。
 俺だって、俺だって!!
 『陽大…?』
 『陽大、寒くねえの?手、こんなに冷たくなってんじゃん』
 『雪、好き?』
 クリスマス前夜祭が想い浮かんで、こんな時でも、俺が想い出すのはいつだって。

 違う違う、ダメダメ、ないない。
 『俺も好きー』
 ないない、ないない!!
 そう、柾先輩はね、あんな強烈な男前のくせに雪がお好きでね、マロンさまを溺愛されておられて。
 けれど、3学期を迎えたばかりの先輩は、お変わりないように見えて、なんだか今ひとつお元気がない。
 風邪かホームシックかとお尋ねしても、何でもないの一点張りだった。

 そうか、これが噂のマロンさまシックってやつですね。
 さぞかし有意義なホリデイwithマロンさまをお過ごしになられたことでしょう。
 俺が心配することなど皆無でございます。
 きっと、とんでもなく素敵なご令嬢さまが、婚約者さまでいらっしゃるでしょうし?
 気にしない、何にも。
 俺は3年生さまをお送りする会の最終打ち合わせや、進級するための勉強や、急に大人びてきた皆さん方のお弁当やごはんを作るのにてんてこまいなんだから。

 気にしない、けれど。
 先輩がお気に入りのはるともどき(注:陽大流がんもどき)、仕込んでお弁当に入れようかなぁ。
 それぐらいなら俺にもできるから。
 お世話になってばかりの先輩ですからね、1後輩としてのささやかな感謝の気持ちでございます。
 スクールバッグの中に潜ませた、少し欠けているシロクマのストラップを想い返す。
 携帯電話は壊れてしまったけれど、これは何とか無事だった。
 お守りみたいで安心するから、今でもこっそりと持ち歩いている。

 さてと!
 授業が終わってHR後、心春さんと穂さんに手を振って、クラスの皆さんともご挨拶しながら教室を出た。
 まだぎこちなさは残るけれど、こうしてご挨拶できるだけで嬉しい。
 当たり前に想っていいことなんて、何ひとつない。
 ちいさくため息を吐きつつ、待ち合わせ場所へ向かった。
 誠に恐縮ながら放課後、生徒会室へ行く時、いつもどなたかが付き添ってくださるようになっている。

 そろそろお断りしなきゃいけないけれど、やっぱり誰かが側にいてくださると、恐怖感が薄れるから、つい甘えたままになっている。
 教室を出てすぐ、廊下の角が待ち合わせの定番。
 早く1人で行動できるようにならねば。
 反省と感謝を忘れないようにと戒めながら、既にある人影へ向かって、近づくにつれ目がまんまるになった。

 付き添ってくださる方は、生徒会の関係者さまか、風紀委員さまか、武士道か、時には心春さんや穂さん、バスケ部の方だったのに。
 「美山さん…?」
 無言で頷かれた美山さんは、HRは愚か5限からいらっしゃいませんでしたよね?と詰め寄るのも忘れるほど、不思議な雰囲気で立っていらっしゃった。



 2014.7.11(fri)23:26筆


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