34.副会長のまっ黒お腹の中身(12)


 何がどうなってやがる。
 これは夢か?
 俺はまだ正月気分で寝惚けているのか。
 昴が出て行き、宮成先輩が後を追った(どうでも良いが、何だこの組み合わせ。旭は何故追わなかった?)。
 直後、凌や1Aの連中が引き続き反対の意を示し、武士道も釈然としない中、一成はそれらに対し、どういう結果になろうとも前陽大の側に居て支えてやって欲しいと、上手く丸め込んで黙らせた。 

 それから、告白大会なる世にも奇怪な関係者以外極秘イベントの順番を決めるべく、怖々と名乗りを挙げたメンツで相談を始めて。

 「…莉人は、参加しなくて良かったのかよ」

 そう、こんな風に、今目の前に居る心太の様に、3年からも旭からも一成からも聞かれた。
 念押しの様に、牽制の様に、無表情で。
 既視感に瞬きをした。
 俺はいつの間に部屋に戻った?
 どうやって歩いて来たのか、定かではない。
 ぼうっと辺りを見渡して、肩に掛けられたバスタオルに気付いた。
 何だこれはとガン見していたら、目の前に現実に存在する心太が、大きなため息を吐いた。

 「…ま、どーでもいーけど。ボケっとしてんなよ。覚えてねーみたいだから言うけど、お前から電話で呼び出しやがったんだからな。俺の初出勤は明日からの予定だったのにさー…部屋でナポレオンパイ食う寸前だったのに…あ、想い出したら腹立ってきた!後日請求するからな!
 呼び出されたから慌てて来てやったら、この吹雪ん中、武士道のテリトリーから戻って来たって、お前マジ何なの。我に返ったんなら、さっさと風呂入って来いや!ったく…入寮日だから良かったものの、明日だったらどうなってたか…雪濡れで哀愁漂うプリンス様とか、シャレになんねっつーの!」

 頭ごなしに言われ放題、流し聞きながら窓へ視線を向けた。
 いつからだ。
 山の天気は下界とは違うとは言え、かろうじて曇天で止まっていた筈。
 こんな荒天になろうとは。
 「…入寮は大丈夫なのか。生徒達は」
 「さぁな。一時的なもんらしいから、治まったら続々やって来るんじゃね。良いからとっとと風呂行け風呂!お前、年末も風邪引いてたんだろ?奥様が心配なさってたぞ」

 1人掛けのソファーから蹴落とされそうになった。
 新学期早々、これが御主人様に対する態度なのか。
 そう想いながら口に出す気力はなく、やむを得ず立ち上がり、ほぼ拭かれ終わっている髪を、所在なくタオルで拭いながら、辺りを片付けている平坦な横顔を見た。
 実に複雑な表情だ、眉間に皺が寄っている。
 仏頂面は昔から変わらないが。

 「心太はどう想う」
 「あぁ?!お前、まだ居たのかよ」
 「これぐらいで風邪など引くか。御主人様の質問を無視するのか」
 「ウザ!お前、マジでウザい!新学期早々、何なの?『お前ら』、マジで何なの?1学期からずっと学園騒がせやがって、いい加減にしろっつーの」
 「それもそうだが…今度の件は一成の独断だ」

 「銀色の独断だから何だっつんだよ?お前は関係ありませんって?ふざけんな、表裏どっちの観点から見ても阻止するべきだろうが。どんな経過や結果にしろ、誰も納得しねーっつの」
 その両眼に、珍しく怒りの炎が灯っている様に見えた。
 富田先輩同様、冷静さを売りにしている心太が、これ程に怒る事があるのか。
 「つーか、お前だってあの子に何か言いたかったんじゃねーの?弁当のタコがタコがってうるさかったじゃん。あの日だって取り乱してよー外目から見たらお前の動揺ってわかんねーけど」

 より燃え上がった様に見える瞳に、俺は何故か余裕を取り戻した。
 「どうだか…?あいつらと馴れ合うつもりはない。俺は好きな様にやるさ」
 「…莉人…」
 背を向けてバスルームに向かいながら、前陽大を想い浮かべる。
 想像の中でも、現実でも、見るのは笑顔ばかりだ。
 周り中を巻き込んで明るく和ませる、強い引力。
 俺がもし想いを告げたなら。

 その笑顔は消え、見る間に困り果てた顔になり、泣きそうに歪むのだろうか。
 誰も選べないと、常に公平で平等な前陽大は苦しむのだろう、実際に涙を落とすかも知れん。
 心優しい前陽大の涙は、それは美しい至高の宝石に違いない。
 若しくは、この腕の中に飛び込んでくるのか。
 あの華奢な身体が俺にすがりつき、嬉しいとかよろしくお願いしますとか、実は俺も好きでしたと頬を染めるのか。

 いずれにせよ、他に告白してきた連中に悪いと、涙を溢れさせるのだろうな。
 俺はそれを優しく拭い、誠心誠意慰めよう。
 「HOTEL KAIDO」のレストランを予約しても良い。
 美味い食べ物があれば、傷心も癒えよう。
 いや、ちょっと待て、俺は何を考えている?
 頭からシャワーを浴びながら、かぶりを振った。
 無いな、無い。

 『不参加で良いんだね、莉人…?後出ししてきたら許さねぇよ?』
 酷薄な一成の瞳が脳裏に甦る。
 本気の眼差し、本気の声だった。
 俺はそれに応じ、戻って来たのだから、下らない妄想は不要だ。
 前陽大を泣かせるよりも寧ろ、何故か怒りを宿しながら寂し気な心太を泣かせた方が、愉しいのではあるまいか。
 いや、それはもっと無いな、無い。

 昴はこの事態、どうするつもりだ。
 1番得体の知れないあいつに責任転嫁するしか、この散り散りに乱れる心は鎮まりそうにない。



 2014,7,8(tue)23:41筆


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