30.武士道ロック(7)by 苅田


 ほいっとな〜一丁上がりっ!
 「バッカ、相手見てからケンカ売れっつーの。武士道ナメんな!」
 人指し指立てて、ちょっとして気づいた。
 ぅおっとっと間違えた、中指だっつの。
 折角、一撃必殺だったのに危うく締まらねぇところだったぜ。
 こんな時には、お母さんが居なくて良かった!と想うな。

 「カンちゃんったら、中指の間違いですよ?」
 ってクスクス笑われる場面だ。
 お母さんの前ではちったぁビシっとしておきたいもんな。
 いや、武士道の居ないところなら、お母さん限定で笑われんのも良いけど、。
 ん?
 いやいや、待てよ俺。

 「こらぁっ!!カンちゃん!!人さまに向かって指を立てるとはなにごとです?!天誅っ!!」
 これ間違いなく激怒されて、超スペシャルサンダーデコピン連打で喰らう場面じゃねぇか。
 あっぶねー!
 だからお母さんはやっぱり、ケンカには連れて行けないんだ。
 ホームで待っててくれんのが良いな。
 「おかえりなさい、カンちゃん」って笑顔で迎えてくれるのがわかってると、自然とハイんなって早く片付けるか!ってなるもんな。

 「ぐっ」
 「ったく、人が考え事してんのに立ち上がってくんなっつの。武士道ナメんなっつってんだろーが。大人しく寝てろっ」
 ちっ、ウっゼぇな。
 ちょーっと背中見せたら、クソ浅い知恵働かせて起きる根性とか見せやがって。
 鳩尾に肘を入れたら、鈍く呻いた途端、今度こそ地に伏して動かなくなった。
 今度は間違いなく中指立てて、取り敢えず歩き出す。

 ケンカの時は、側に居てくんなくて良い。
 けど俺はよ、クリスマスには興味ねーけど、お母さんとならクリスマスも晦日も正月も、一緒に居たかった。
 お母さんが忙しいなら、別に平日でも構わなかったんだ。
 下界で、夏休みん時みてぇに、会えるだけ会いたかった。
 人目を気にしてコソコソ会うのも楽しいけどよー、クソ学園から離れた方がお互いラクだし。

 会いたかったなぁ。
 受験で会えなかった去年の分、取り戻すぐれぇに会って一緒に騒ぎたかった。
 お母さんが居ない2回目の冬は、去年より遥かに暗くて、あんだけ男連中集ってる武士道が、毎日通夜みてーだったんだぜ。
 硬い雪を踏み締めながら、腹いせ紛れに煙草を吸う。
 どーせこんな敷地の外れ、風紀もセンセーも目ぇ届いてねぇし、武士道テリトリー近いしな。
 
 俺らの都合ばっか、お母さんに押し付けるワケにいかねーけど。
 超絶くだらねークリスマスパーリーの後、ちょっとだけ集ったのが楽しかっただけに、何かスッキリしねー休みになっちまったな。
 今日やっと会えるけど、お母さん、元気にしてたのかな。
 俺らなんか居なくても、お母さんは平気なのか。
 あんな事件の後だからこそ、俺は側に居たかった。

 そーちょー達や一応恩人のクソ会長の手前、言い出せなかったが。
 こんだけ遠慮して会えてなかったんだ、これでお母さんの元気なかったら誰も許さねぇ。
 イラっとして、入寮日早々に襲いかかってきたさっきのバカ、もうちょい殴っとくべきだったと後悔した。
 あー、イライラする。
 そーちょーも副長も変だったし、武士道内はもー滅茶苦茶だし、あーヤダヤダ。
 お母さんに会いさえすれば、俺らは大丈夫なのに。

 短くなった煙草、そこらに投げ捨てようとして想い留まった。
 「いけません、カンちゃん!ポイ捨てするような子はウチの子じゃありません!まして此所は自然豊かなお山の中、何て罰当たりなことでしょう。大体あなたは禁煙するって俺の前で誓ったばかりでしょうに!天誅&没収っ!!」
 俺らはどこで何しててもさ、お母さんの声がちゃんと聞こえるんだ。
 イライラするけど、もーちょっとの辛抱だよな。

 また楽しい日が戻って来るよな。
 
 禁煙の道程途中、失敗したり魔が差した時用にと、懐深いお母さんにプレゼントしてもらった携帯灰皿に吸い殻を入れた。
 明日から3学期か。
 俺らは今度こそちゃんと、お母さんを守って、楽しく暮らすんだ。
 決意新たに雪のチラつく空を見た時、スマホがブルった。
 あ?
 ロック解除するなり、いきなり始まる通話に眉をひそめる。

 『苅田か。どこほっつき歩いてんだ、お前』
 「つーか入寮日に吉河の声なんか聞きたくねぇんだけどー。んだよ?」
 『俺とて好きで電話してんじゃねぇ』
 お互いため息は消えねぇ。
 けど、次の瞬間、全部聞かない内に俺は走り出していた。
 『仁さん、一成さんがお呼びだ。何故かあの事件の日、集ったメンツも招集するそうだ』

 何が始まるってんだ、一体。
 
 

 2014.7.2(wed)23:37筆


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