13.
「おー、何とか間に合ったな〜」
鹿鳴館が現代に存在した。
そんな趣を感じさせる、美しく大きな建築物の前で、全員キキーっとブレーキを効かせて立ち止まった。
……ゼイゼイ、ハアハア……
クラスメイト皆さんの息が切れている中、先頭を先導するように走っておられた、恐らく担任の先生さまと、美山さん、あいはらさん、おとなりさん、かろうじて俺も呼吸が乱れていなかった。
このところ、運動不足だったんだけど…
まだそんなに衰えてないみたいだ、よかった〜!
寮生活に突入しちゃったから、タイムセール・ダッシュとは当分お別れだし…
体育の授業だけじゃ物足りないし、運動部に入ろうかなぁ…
いや、学校探索が可能なら、運動には申し分ないかな?
そんなことを考えていたら。
「やるじゃん、前!足早いのな」
隣にいらっしゃったおとなりさんに、ぽんっと肩をたたかれた。
「いえ、俺など大したことありませんよ〜おとなりさんこそ、なにか部活動に励んでおられるのですか?」
「ははっ!『部活動に励んでおられる』って…!前の言い回し、マジで面白い!」
「???」
おとなりさんは、ほんとうに笑い上戸らしい。
ケラケラ楽しそうに笑っていらっしゃる、そのおとなりさんの頭を、推定・担任の先生さまが軽く小突かれた。
「痛っ!」
「おら、お前等〜入学式前だ、静かにしろ〜お前等クソガキの為の厳粛なる一大イベントだぜ、さっさとてきとーに整列しやがれ。少しでもくっちゃべったヤツは、俺から一生トラウマもんのほにゃらららをお見舞いしてやるからな…?おら、呼吸も細胞分裂もなるべく控えやがれ。いーかー、行くぞ〜A組様、ご入場だ」
おっとっと、今から入場なんだ…!
この歴史を感じさせる、旧さの中に新しさもある建物の中で、入学式が始まる…
推定・担任の先生さまの号令に、後方からちいさな歓声が上がったのと…「一生トラウマになりたぁい」って聞こえたような…?
俺の後左右にいらっしゃる、美山さんとあいはらさんとおとなりさんが「っち…」とちいさく舌打ちされたような気配と。
推定・担任の先生さまが、扉を開いたのは同時で。
俺はただただ、ドキドキと高揚する気持ち、緊張でいっぱいいっぱいだった。
今日は、十八学園に入学した実感を得る日。
そして…
俺の、未来のお義父さんが、たくさんの人々の前でお仕事している姿を実際に見る日。
十八さん、今朝はちゃんと起きられたのかな…?
母さんは「仏の顔も3度まで」主義だから…3回起こして起きない人は、どんな日でも放置する。
朝が苦手な十八さんを起こす役目は、俺だった。
後でメールしてみよう。
入学式の感想といっしょに。
推定・担任の先生さまの後に続きながら。
それはもう巨大で広い建物の中、既に他の生徒さん方は着席、先生らしき大人の方々は所定の位置にて、それぞれ待機しておられた。
ここは…劇場…?!
時代を感じさせる外観とは異なり、中はコンクリートと木材で組まれた近代的なデザインだった。
光がふんだんに差しこむようになっていて、とても明るい。
床に敷き詰められた、瑠璃色の絨毯が鮮やかだ。
生徒さん方が座っておられる椅子は、まさに劇場仕様、木製で黒いクッションが座面についている。
あまり観察している余裕はないけれど…
この学校は、ほんとうに、どこもかしこも見所満載だ…!
――…わぁ…アレがA組…?――
――…実際に見ると、ほんっと最悪なクラスってカンジ…――
――…A組じゃなくて良かった…――
――…素行を別にしても、レベル違い過ぎ…――
――…PTAの差し金とか…――
ん?ん?
俺たちが通る度、あちらこちらからひそひそ声が聞こえる…?
よく聞こえないけれど、ギリギリに来ちゃったから注目浴びてるのかな。
「おら、てきとーに座ってやがれ。借りて来た猫より大人しくしてろよ〜てめーら。問題起こしやがったら即刻ほにゃららの刑な」
着席はクラス順になっているのだろう、推定・担任の先生さまが連れて来てくださったのは、壇上から1番近い先頭の横一列。
適当に座っちゃっていいのか〜…
どうしようかと想っている内に、クラスメイト皆さん方はテキパキ座られて、気づいたら真ん中の席しか空いていなかった。
そこへ、左の空席から美山さん・俺・あいはらさん・おとなりさんの順で落ち着いた。
うっわ…
この椅子の座り心地、すっごくいい…!
2010-05-31 23:55筆[ 65/761 ][*prev] [next#]
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