26.武士道ロック(6)by 椿堂


 折角のメリクリなのにさぁ(厳密に言えば明日がイブだけどな!)。
 お母さんが、遠い。
 お母さんは遠くで、あちこちから声掛けられるまま、俺らじゃない雑魚共に笑いかけてる。
 お母さんの笑顔は武士道だけのもんじゃねーの…?
 つーか、いつまで此所に居たらいーんだか。
 マジこの学園ウゼぇ。
 
 何だっつの。
 終業式だから?
 クリスマス前だから?
 2学期最後の行事にクリスマス前夜祭だぁ?
 要らねっつの、誰の要望だっつの。
 いくら自由参加っつっても、学校行事ですって言われて3大勢力は(ほぼ)強制参加ってなったら、顔出しぐらいしねーとヤベーってなるじゃんよ。
 
 ウザ!
 超ウザい!
 例え親衛隊でもなぁ、憧れの君(ぷぷっ笑かしてくれるわ!)と間近で会えようが、あわよくば乾杯できようが、今日ぐれーさっさと帰りたいっつの、山ん中は雪積もってるつの!
 実家遠い連中なんか、ずっと天気予報気にしてるしよー。
 言っても都会の外れの山、山に慣れてない下界からの迎え、ちょっとでも雪降ろうもんなら交通事情で無理ってなる事も有り得る。

 現に俺らの代の何年か前、クリスマス終わるまで山に閉じ込められた事もあったらしい。
 やってらんねーっつの。
 2学期の終業式当日ぐれーさっさと帰らせろっての。
 本当ならさー。
 去年は受験生だからって、お母さんから拒否られてできなかったクリスマス会。
 一昨年に1回したっきり、ずーっとお預けでさ。

 今年こそできんじゃねーの、いや、できるできねーじゃなくやるんだよ!
 っつって、学園祭の準備期間最中から下界のホームと連絡取り合ってさ。
 お母さんもいろいろ重なって、元気なかったから、せめてクリスマスぐらいは下界で盛り上がろう、大サプライズにしようって準備進めてたのに。
 あんな酷い、体育祭の嫌がらせどころじゃない事件あって、さ。
 チラっと顔を上げて、お母さんを見ようと想ったら、さっきと違う場所に連れられて、別の雑魚共に囲まれてた。

 お母さん、無理してねーかな。
 めっちゃ笑ってるけど、キツくねーのかな。
 いや、無理してるよな、無理して頑張ってるに決まってる。
 戻って来た時だって、100%元気じゃなかった。
 未だに俺らと接するのにも、ビクっとなったり強張ってる時があるもんな。
 けどお母さんは優しいから、頑張るんだ。
 無理してでも強く在ろうとする。

 だから、クリスマスも正月も無しだって皆で決めた。
 俺らの前で無理させたくないから。
 お母さんが学園に戻って来たのも、出席日数とか維持して頑張る為だろうから、本当はまだ身も心も辛い筈だ。
 冬休みはゆっくりして欲しいって、誰も邪魔しない事になった。
 それで良いのかって疑問もある。
 無理矢理でもにぎやかに元気にしてりゃ、気も紛れるだろうし。

 でも簡単じゃないよな。
 俺らが勝手にどうこう決めて動く事はできない、あまりに惨い出来事だったから。
 結局、首謀者共をとっ捕まえる事もできなかったし。
 もうずっと消化不良で、腐りっぱなしだ。
 「椿堂、準備はできてるよな」
 「!仁さん…ウス。言うまでもなく完璧っす」
 取り巻きを撒いてやって来た仁さんに声を掛けられた。

 せめて今日、イブイブで時間もそんなに無ぇけど、お母さんと一緒に盛り上がりたい。
 武士道だけでちゃんと集りたいって、俺らのワガママをお母さんは聞いてくれたんだ。
 「よしよし、ご苦労さん!じゃ、そろそろはるとに声掛けて来るわ。お前らは先行って、最終準備頼むな」
 ニヤリと笑う仁さんの明るさに、塞いでた気持ちもアゲアゲだぜ。
 アゲアゲついでに俺は、いきなり聞いてみたくなった。
 「仁さん…一成さん、大丈夫なんスか」

 ずっと消化不良で腐ってる俺らの中でも、一際狂気を宿してる一成さんが、この頃、不穏な単独行動を取っている。
 あの頭脳戦でこそ鬼となる副長が、隠しもせずに堂々とコソコソ動いてるっておかしくね?
 誰の目から見てもおかしいが、一成さんだから、俺らは何も言えない。
 お母さん絡みなのは間違いねーだろう。
 仁さんは俺の疑問をわかっている、一瞬眉間に皺を寄せ、苦笑した。
 
 「俺にもわかんねー。探りは入れてっけどな。ま、一成がはるとを傷つける事はしねぇだろうよ。そこだけは信頼してるからな」
 「…ウス。そうスよね」
 俺らだって、それだけは信用してる。
 「大丈夫だ、椿堂。もう行きな。俺とはるとも直に向かうからよ」
 「ウス!」
 また雪が降ってきそうな、うさんくせー空の下を駆けながら。

 けどね、仁さん、一成さん。
 頓田と苅田と吉河、俺ら4人で決めてるんス。
 俺らは総長も副長も尊敬してる、恩もある。
 でも、お母さんを傷つけるのは、例え相手が2人でも許さない。
 もう絶対に黙って居ねぇ。
 いざとなったら、俺らは俺らだけでも動く。

 本音言うなら、総長か副長、どっちでもいーからお母さんとくっついてくれりゃ安心ス。
 いや、やっぱりお母さんはお母さんだけで良いな。
 お父さんなんか要らねーわ。



 2014.6.25(wed)22:39筆


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