23.天使バルサンが奏でる狂想曲(14)


 はあってため息吐いたら、クッキリ白い息が空中に浮かんだ。
 そんで肺の中が一気に冷えて、ブルブル震えた。
 「ちょっと!ため息なんか吐かないでよねっ不吉!」
 「いってえ〜心春、おでこ突つくなよ!はるとみてぇ」
 「当たり前でしょ?!はるとに師事してんだから。言っとくけどあいつのデコピンはもっと強力だからね?!」
 うっわ、マジでー?!

 ゾーっとしながら、それにしても寒ぃな、このガッコ。
 「なぁ、外にも床暖付けたらいーのになっ!雪はうれしーけどさー、毎日毎日寒いっつのー」
 「バっカじゃない?あーやだやだ!バカだバカだと想ってたけど、ここまでバカだとか…こんなクソ広い学園敷地内、まして外に床暖とか付けれるかっつー、」
 「「「あ、心春ちゃーん!バイバーイ!」」」
 「うふっ、さようなら皆さん。ごきげんよう」
 「「「かっわいーーー!」」」

 オレ、最近よく想うんだけど。
 心春って最強だよな、何か。
 ついさっきまで鬼の形相で悪態吐いてたクセに、声掛けられた途端、クネっにっこりっテレテレって
何の技?
 デコピンと違う意味で怖ぇよ。
 どっかのお嬢様みてぇ、優雅にヒラヒラーって手を振る姿に歓声上げた奴らは「やっぱ1年では心春ちゃんが1番可愛い」とか盛り上がってる。

 知らないって、怖い事なんだな。
 呆然と交互に見ていたら、いきなり首根っこ掴まれた。
 「ぐえっ」
 「ちょっと!何ぼーっとマヌケ面で突っ立ってんの?!さっさと行くよ!今日は試験からやっと解放されたよ万歳パーティーなんだからねっ」
 「く、苦しい…!わかった、わかったから!歩くってぇ!」
 ガサガサと手にした袋を揺らしたら、ふんって鼻で笑われて離してもらえた。

 マジで怖ぇぇ。
 心春には逆らえない。
 逆らったらどうなるんだろう、いや考えたくない。
 首を振って、先を急ぐ心春の後を慌てて追った。
 怖ぇし殺気立ってるけど、何か嬉しそうだな。
 無理もないか、1週間の試験が終わって、やっとはるととゆっくりできる晩ごはんだもんな。
 冬休み前、今年最後の。

 早かったなぁ、何かすぐだった。
 はるとが戻って来て、試験になって、明日はもう終業式で、ガッコの最後のイベント、クリスマスパーティーで。
 明後日には皆、それぞれの帰る場所へ戻ってしまう。
 早いヤツは、明日のイベントには参加せず、終業式後すぐに帰るんだって。
 はるとは生徒会があるから、明日も1日中会えるけど。
 その後は、しばらく会えない。
 
 冬休みが2週間しかないとか物足りねーって、昔は想ってたのにな。
 今は長いなぁって想ってる。
 考えてみたらすげーよな、次に会う時は新年なんてさ。
 いろんなヤツに釘差されたし、オレもはるとにはまだ休みが必要だって、それが良いって想ったから誘えなかったけど。
 冬休み、一緒に遊びたかったな。
 つーか新学期になったら、また会えるんだよな?
 
 はると、ちゃんと戻って来てくれるよな?

 しばらく会えなかった事、想い出すと怖い。
 このままもう2度と会えないんじゃないかって。
 オレは、人が簡単に死ぬのを知っているから。
 どんなに周りが頑張っても、簡単に、冷たくなって動かなくなるのを知っているから。
 傷ついて青ざめてた、ピクリとも動かなかった、昴に抱えられて戻って来たはるとの姿、忘れられないんだ。
 あのまま目が覚めなくても、おかしくなかった事を。

 「ふぇ?!心春?!」
 「静かにしなよっ!いちいち大きな声出さないで!」
 「え…っ。つーか、心春のが声デカいじゃん」
 「うるさい!!黙って僕に付いてきなっ。まったく穂はフラフラして頼りないったら」
 急に繋がれた手は、心春の手で。
 ちっちゃいけどあったかい、ちゃんと生きてる手で、どっちがどうかわからないぐらい震えてた。
 元気にしてる、皆。
 精一杯、元気なフリしてる、はるとが誰よりも頑張ってるから。

 だけどまだ、どっか不安で、守れなかった、助けられなかった事をずっと後悔してる。
 謝る事すらできないまま、オレ達は冬休みを、新年を迎えようとしている。
 ぎゅっと手を握り返したらぎゅって、返事みたいに反応が返ってきた。
 うん、不安だよな。
 一緒だな、心春。
 すごく強く見える心春だって、そりゃ不安だよな。
 
 「なー!オレ、いーこと想いついたっ!」
 「はぁ?穂の想いつく事なんて、どーせろくでもない事でしょっ」
 「ひっでー!マジでいーことなのに!あのさ、あのさ、新学期んなったらー新年会しよーぜっ!最初の休みの前日から集ってさー泊まったりして、朝メシとかも一緒に食って!うーオレ、朝か昼ははるとのホットケーキが良いなーっ」
 心春のデカい目が、まんまるに見開かれて。
 ふわっと笑った。

 「バカのクセに良い事言うじゃん。つーか昼まで居座る気かっつーの!図々しいな」
 「いーじゃん!ずーっとダラダラしてさーきっと楽しいって!」
 「楽しいのは当たり前でしょ?!はるとと一緒なんだから!よし、そうと決まれば早速約束取りつけておかなきゃ!武士道様に独り占めされちゃう」
 「はっ!ホントだな!アイツら、すーぐはると独占するもんな。新学期はそうはさせないぜ!!」
 「おう!じゃ、そうと決まったら走るよ、穂っ!」
 「え、走んの?!何でっ?!」
 「バカだね!より腹を空かせる為と、先約勝ち取る為に決まってんでしょ!!ほら、早くっ」

 はるとに頼まれた、買い物の袋を揺らしながら、夕暮れの中を走った。
 いつかぜーんぶ、笑い話になるよな。
 オレが心配してなくても、はるとはだいじょーぶだよな?
 ぜーんぶ、上手くいくよな。
 だってはるとはオレと違って、すげー良いヤツで、生徒会も試験も料理も、全部頑張ってるんだ。
 一生懸命、元気にして、皆に笑いかけてるんだ。

 走りながらオレは、クリスマスも正月も要らないから、はるとが本当に安心して笑っていられますようにって、そんな日がきますようにって、何回も願っていた。 
 ついでに、昴の婚約者なんか居なくなって、はるとを幸せにしてくれますようにって、願うのも忘れなかった。
 それが1番いーって、絶対!
 頑張ってるはるとに、オレの分までご褒美がありますように。
 オレももっと、頑張るから。
 


 2014.6.22(sun)23:32筆


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