20.金いろ狼ちゃんの武士道(7)
そろそろお開きが良いんじゃね。
だだっ広い部屋ん中、時計を探そうとしてすぐ諦めた。
広すぎるっつの、どーなってんだこりゃ。
初めて入ったけど、昴はこんな部屋で寝起きしてたんだな。
まんま、ホテルのスイートじゃん。
本人も苦笑いしてたのが頷ける。
そりゃ狭いより良いけどよ。
どーせ使うのはベッドルームとリビングとバスルーム、トイレぐらいだっつの。
俺らぐらいの部屋の広さが丁度いーのかもな。
何だよ、こんだけの人数集っても全然余裕で、そのバカデカいリビングの奥に連なってる扉とか奥行きとか、ロフトスペースとか。
昴なんか特に、3大勢力業に1日拘束されてっから、まともに此所に居る時間もねぇだろう。
俺なら確実に持て余す1フロア分の巨大部屋、だが流石柾の家と言うか、空間をゆったり活かして置かれた家具や調度は、どれも落ち着いて部屋に馴染んでいた。
疎い俺でもわかる程、シンプルであるそれらにとんでもねぇカネがかかってんのは明らかだ。
部屋の広さに負けない調度を、過剰に演出する事なく用意できる。
富田先輩以外にも居た、有名無名問わない分家筋の存在にも、ぶっちゃけ引く程ビビったけど。
この根城見ただけで格の違いを想い知らされんな。
居心地悪くねぇのが逆に怖いっつの。
実際、このメンツで集るってなった時、そりゃ反発し合ったしトンチンカンよしこ達は渋ったし。
来て暫くは異様な緊張感だったのが、もう全員リラックスしてる。
前からこの部屋に居着いていたような、ここに居るのが自然であるような錯覚を覚える。
何の魔力だっつの。
ま、はるとが帰って来てニコニコしてる効果もデカいだろうけどよ。
「仁、仁、このフロマージュチーズタルト、食べた?!どうだった?」
おっと、腕を引かれて我に返りはるとに向き直る。
キラキラしてんなぁ。
痩せたし、若干の強張りは解けてないけど、はるとには生気が見える。
今夜もそんなに食ってねぇみてーだけど、元々食細いし、デザートに目ぇ奪われてるぐらい食欲旺盛なら大丈夫だろう。
「食った!つか、はるとも食えばいーじゃん。コレなー十八スイーツの中でも5本の指に入る美味さなんだぜ?」
「俺はもう、お腹いっぱいだから…」
途端にショボショボするはるとをビビらせない様に、そっと手を伸ばして頭を撫でた。
「なら、近い内にまた頼んで一緒に食おうぜ。1ホール買いして武士道で集ってさ」
ショボショボの目が、また力強い輝きを取り戻す。
「うん!」
こっくり頷いて、頷いたまま寝そうだなと想った。
そろそろ寝る時間だろうし、戻って早々のこの騒ぎ、疲れただろう。
こっそり連れ出して、部屋まで送ってってやろうかね。
想ってる間にもまだ話し足りねぇと言わんばかりに、合原だの九だのが声を掛け、はるとを輪の中へ引き戻す。
気持ちはわかるけど、大概にしろっつの。
3年生組は頼りになんねー、途中でソフトドリンクから酒に変化したカクテルに酔ってんのか、壁際でぼーっとしてる。
昴はガキ共のお守りで忙しいし、後は凌に託すか。
一成は素直に送り届けそうもねぇし。
つーかあいつ、マジで何してんの。
何する気だっつの。
俺の目盗んで、コソコソ動きやがって、もう十分だろうが。
はるとが帰って来た。
また俺達の側へ戻って来た。
だから平穏を守る、もう嵐が起きない様に平和を維持する。
それで良いんじゃねぇのか。
この上、まだはるとの身辺を慌ただしくするとか、しかもそれを武士道の銀が起こすなら、俺は看過しねぇぞ。
どいつもこいつも浮ついてやがる。
もう沢山だ。
俺は楽しくバカやれたらそれで良い。
はるとが笑って、学園がマシな方向に進んで、武士道で面白おかしく過ごせたら満足だ。
それで良いじゃねぇか。
一成だけじゃねぇ、和を乱すヤツは許さない。
はるとから笑顔を消すなんて、2度とごめんだ。
2014.6.18(wed)23:37筆[ 637/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -