12.ご対面〜!
「あんた、面白ぇな!!」
視線を向けたら、ツンツンした短髪の、健康的で元気な雰囲気の御方が、にこにこと無邪気に笑っておられた。
「はい…?」
首を傾げると、更に盛大に噴き出されてしまった。
「『はじめまして、おはようございます』、だっけ?俺、音成大介(おとなり・だいすけ)っつーの。あんた…すすめはると、だっけ?どーゆー字、書くの?」
「あ、こちらこそ…はじめまして、おはようございます。すすめは前後左右の『前』、はるとは太陽の『陽』に大小兼ねるの『大』を組み合わせております」
「へー!変わってんね!」
「はい。我ながら物心ついてから珍しいと感じて参りました。漢字だけ見たら、なかなかそうは読めませんよね〜」
相槌を打ち、深々と頷いたら。
彼…おとなりだいすけさんは、笑い上戸なのだろうか?
更に笑みを深くし、快活に笑った。
明るい笑顔だ。
ひたすらに、明るい。
底抜けて明るい。
彼が笑うと、彼の周囲だけではなく、ぱあっと教室全体の空気が変わるように感じる。
やっぱり、人の笑顔って、いいなぁ…
ここまで裏表の感じられない、隅から隅まで全部「笑顔」なんて、なんだか久しぶりだ。
なんだろう、ご本人には失礼に当たってしまうかも知れないが、例えるなら赤ちゃんの笑顔、みたいな。
邪気のない、無垢な笑顔。
俺たち新高校1年生、子供と大人の境界線に立つ、微妙な年頃に差しかかってしまった。
やがて大人となるために通る道、そこへ立つ今日、こんなふうに笑えるおとなりだいすけさんは、どれだけ心が強い人なのか…
「マジ気に入った!!すっげ面白そうだ〜!前、これから1年よろしくな!つか、あの美山と合原に『いけません』とか、『ご忠告ありがとうございます』とか、マジでウケる〜!すげー勇者だよな!」
おとなりさんが名前を出した途端、美山さんとあいはらさんが声を低く合わせた。
「「…人を勝手に呼び捨てすんな」」
同時に、あちらこちらから、いろんな声が降ってきた。
「音成様、心春様を侮辱為さるおつもりですか?!」
「美山様を笑い飛ばすだなんて…!」
「音成自体が勇者だっつーの……」
「皆様こそ、音成様に対して何という発言…」
「そもそも、あの外部生こそが何様なのか…」
ざわざわと、騒がしくなった教室内。
いろいろな声や呟きが混じって、ひとつひとつがよく聞こえなかったけれど。
なんだか不穏な気配で、どうしたものやら…
美山さんとあいはらさんは、おとなりさんをにらんでいるし、でもおとなりさんはすこしも応えていなくて、にこにこと笑っていらっしゃるし…
おろおろしていたら、急になんの前触れもなく、前の扉がガラッと開かれた。
「チィース、俺様のA組の可愛い可愛い・問題児野郎共!はい、私語慎め〜10秒やるから静かになりやがれ、新1年生の中でも選りすぐりの可愛い可愛い小悪魔共め。
でもって静かにできたら、さっさと教室飛び出して駆け足、全力前進、講堂へ!!おめーらのくだらね〜入学式が、後10分…正確に言やぁ8分52秒後に始まるからな。ホレ、冷静になったヤツから順次ダァッシュ!!」
え…?!
突然現れた、見目麗しく華やかなオーラ漂う、豪奢なスーツ姿の殿方の登場よりなによりも。
その発言のごく一部の内容に、俺は、目を見開いた。
あと、8分52秒後に、入学式が始まる…?!
今って何時……9時21分…!!
2010-05-19 23:14筆[ 64/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -