18
はるとの時と同じ、おれの親衛隊が暴走して起こった事件は、「未遂」で終わらなかった。
おれはこーちゃんのように、あの子を助けてあげられなかった。
事件は全部終わってから初めて、下界で遊んでいたおれの耳に届いた。
病院へ駆けつけた。
会ってもらえなかった。
退学する話を聞いて、やっと当日、迎えの車に乗り込む寸前のあの子に会うことができた。
何も言えないおれに、あの子は見たことのない虚しい笑顔で言い捨てた。
「友達って、何?」
それが、最後の言葉、お別れの言葉。
目の前がまっくらになって、涙があふれた。
気づいたら、主犯格の親衛隊の子達がおれの足の下、真っ赤になって転がっていて。
必死におれを押さえて名前を呼ぶ、こーちゃん達が側に居た。
友達って、何?
なんだろう。
ずっとずっと、考えてるよ。
人が怖い、皆、何をするかわからない。
表と裏では違う顔、それは当たり前だと言う。
でもおれは、こーちゃん達のことは怖くない。
好きだ。
仲間だと想う。
はると、はるとも大好き。
上手く話せなくても怒らない、勝手に期待もしない、優しいはると。
2度と会えないあの子と、はると。
忘れない、なのにおれはまた、はるとを守れなかった、何も言えなかった。
ぐるぐると回る。
わからない、おれには何も。
何年経っても、なんにもわからない。
「そーすけ」
ぽんっと、おっきな手が肩に乗ったのがわかった。
見なくてもわかる、こーちゃんだ。
背の高いおれよりも、大きな手の人。
「飲んでばっかいたら胃、荒れんぞ。食いなー」
「…うん。」
ゆーみーが企画したデリバリーの料理の中から、こーちゃんはおれの好きなものばっかり選んで取ってきてくれていた。
こーちゃんも優しい、すごく。
どうして?
おれは、いつまでも足手まといで、役立たずなのに。
「偉いな、そーすけ。ちゃんと約束守ってんじゃん」
「…約束、だから。でも、こーちゃん、おれは、」
そのまま、ボソボソと言った。
弱くて、もう高校生なのにすぐ泣いて、大好きなはるとを守ることもできない。
同じことの繰り返しのおれなんか、どうして側に置いてくれるのか。
わからないんだ。
おれが居たって、誰にも良いことないでしょ?
こーちゃんは、笑った。
おれの好きな顔で、おれがいつも安心する、ほんとうの顔で笑った。
「損得で友達や仲間を選ぶかよ。選ばねえだろ、そんなの仲間って言わねえ」
「こーちゃん…。」
「大事なのは一緒に居て楽しいか、心地良いか。居心地悪かったらどんなに役得あろうが自然に離れるし。人間関係は損得だけで計れねえ程、深いもんだ。
大体、そーすけは役立たずなんかじゃねえって、ずっと言ってるだろ。お前はお前にできる事を精一杯頑張ってる。生徒会の資料作り、お前の右に出るヤツ居ねえじゃん。たまに笑ったら奇跡だっつって有り難がられてんのなんか、中々ないすげぇ特技だと想うし?そーすけは俺にとって頼り甲斐ある後輩で、ワンコロみてえに可愛い癒し系っつか」
目を細めた優しい顔が、離れた陽大に向けられる。
「陽大は陽大だ。『あいつ』とは違うし、それで良いんだよ」
「…う、ん……。」
「そーすけ、人はみーんな弱いけど強い、強いけど弱い。皆それぞれ違うから面白いな…これからだっていろんなヤツと出会ってさ、傷つけたり傷ついたりするけど、そんなの怖がらなくて良い。怖いのは誰しも同じで、傷を受ける事に容量いっぱいになってたら大事な事を忘れる、失うから。いろいろあるけど、自分の想いを自分だけは見落とさない様にしねえとな」
おれの、想い?
おれは、「あの子」のことが大切だった、ほんとうに。
大好きな親友だった。
あの時間がずっと続くと想っていたから、あんな終わり方で悔しくて、すごく哀しかった。
今も辛い。
だけど、あったかい時間は宝ものだった。
今は優しいこーちゃんと、生徒会の皆と、はるとと一緒の時間が宝もの。
それで、良いのかな。
今日はずっと笑い顔のまんまのはるとを見て、ちいさく息を吐いた。
おかえり、はるとって、月曜日になったらまた言おう。
待ってたよって。
はるとと一緒に居るのが、おれは好き。
はるとと生徒会の皆と、一緒にわいわいしているのが1番良い、1番好きなんだ。
だから、今度何かあったら、絶対守る。
何か起こる前に、はるとの笑顔、おれが守るからね。
今度こそ絶対、側に居るから。
2014.6.16(mon)23:36筆[ 635/761 ][*prev] [next#]
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