15.孤独な一匹狼ちゃんの心の中(17)


 何だって俺はこんな所に居るんだか。
 音成と九の所為だ。
 壁に背を預けながら、野郎に囲まれて笑ってる前を見るともなく見る。
 あいつ、あんなに小さかったか?
 周りの連中がデカいのも要因だろうが、にしても、生徒会の双子より小さくて華奢とか。
 あぁ、側に居たら姿勢は良いし、奇妙に存在感あるから俺が気づかなかっただけか。
 こうして遠目から見たら、小柄っぷりが目立つ。

 例の件も燻ってんだろうが。
 一見すると何ら変わりなく見える、元気そうで顔色も悪くない、笑顔に無理はない。
 けど、緊張してる。
 野郎共が距離を詰めると、若干強張ってる。
 現場を見てねぇから知らねーけど。
 下界でもガラの悪さで有名なチームの上層部に囲まれ、ボコられて犯される寸前だったとか。
 見てねぇ俺にはわからない。

 俺は、間に合わなかったから。

 間に合ったクソ会長のご大層な部屋を見渡す。
 見渡しても見切れないバカデカい部屋は、派手好きなクソ会長からイメージできない程、意外に落ち着いた印象で片づいていた。
 もっとくだらねー部屋だと想ってた。
 その人間性と同じぐらい、くだらねー部屋でくだらねーモノに囲まれてんだろうと。
 心底バカにして見下してた。

 そのクソ会長に及ばなかったどころか、俺は、前を傷つけて静養を余儀なくさせた加害者共と大差ねぇ。
 無理矢理ヤった事も、無理矢理仕掛けたケンカも、数え切れない。
 下界で荒れ始めた当初はそれこそ、優等生の大人しいガキをカモにしていた。
 怯える眼差し、恐怖で竦んでいる姿を小バカにして、愉悦すら感じてた。
 力のない弱者を同じ男とは想えねぇって。
 女でも男でも組み敷く時は、相手の抵抗とか関係ねぇ、どうせ最後は快楽に溺れんだろって、てめぇの都合を優先してきた。
 
 そんな俺が前を助ける為に走り回った挙げ句、バカにしてたクソ会長に指1本も及ばなかった、これは自業自得ってヤツか。
 前の隣に堂々と立ち、笑ってる。
 今回の事も全責任は自分にあるって引っ被りやがった、その存在が腹立たしく、それだけじゃない。
 俺はアンタに勝てねぇのか。
 アンタにだって山程、キナくさい噂はある。
 純度100%のキレイな人間じゃない。

 けど、結局このくだらない茶番の様な集まりの中で、前を助けられたのはアンタだけだ。
 今日も前を迎えに行って連れて来た、その役割に誰も意義を唱えられねぇ。
 生徒会への復帰も了承もらったって、クソ会長は今度こそ前を手中で守るんだろう。
 誰も文句を言えねぇ。
 誰も勝てねぇ。
 前陽大の隣に立つ事さえ、クソ会長が勝ち取って行く。
 やけに煙草が欲しくなり、隙を見て抜け出すかと息を吐いた。

 「――…ウォールフラワー気取ってる場合じゃないんじゃない〜?赤狼ちゃん」
 急に胸倉掴まれた様にヒヤっとなって、距離を数歩空ける。
 ついさっきまで前の側に居た一成サンが、音もなく側に立っていた。
 何の用だと身構える。
 あの時の恐怖は忘れねぇ、苦手意識も変わらねぇ。
 一成サンは飄々と笑い、俺にグラスを差し出した。
 いつの間に中身変わったのか、明らか酒の匂いに相手を見て、前を見た。

 「だーいじょうぶ〜はるるに酒なんか飲ませるワケないでしょ〜?休養明けだし弱いし〜こんだけ厄介な連中居るのに、隙なんか見せねぇよ〜ってね〜酒に強い連中だけコッソリ飲んでるみたいだね〜」
 「弱いし」だと?
 飲ませた事あんのか、この人らは。
 想わず眉間に皺寄せながら、受け取ったグラスを呷った。
 俺の知らない前を知ってる連中が多い事に、妙にイラついた。
 何でこんなにイラつくんだ。

 「ミキティもさ〜そろそろ腹括った方が良いんじゃない〜?」
 口角を吊り上げ、一見人の好さそうな笑顔で、銀の悪魔が囁くのをぼんやり聞いた。
 「まぁ、今はね…はるるが復帰したばっかりだから〜俺も動かないけど〜ねぇ?ミキティもわかってるでしょ〜?このまま指銜えて見てたら、昴の一人勝ちになっちゃうじゃん〜?面白くないよね〜当のはるるがどうするかわからないけど〜」
 「…何言ってんスか?」
 この人、酔ってんのか。
 
 見返した瞳はやけに冷え切っていて、ボコられた時を想い出し、息が詰まった。
 「ねぇ…?だから〜ミキティも参戦したいなら覚悟決めておけよ〜って事〜!こんな壁際でしおらしく見てないでさ〜俺はこうして忠告したからね〜?くれぐれも後から邪魔しないでよ〜?」
 何の話をしているんだ、この人は。
 何を仕掛けようとしている?
 賑やかな室内で、俺は1人、音を失った状態で突っ立っていた。



 2014.6.14(sat)23:33筆


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