14.双子猫のきもち 第9号


 お母さんが帰ってきた!
 お母さんが本当に帰ってきた!!
 大事な事だから、何億回でも繰り返します。
 前陽大が、ここにいる。
 ゆーとみー達の側でちゃんと、ほわほわ笑ってる。
 嬉しくて嬉しくて、今にも目からしょっぱい水が出てきそう。
 だけど俺達「男前同盟」、人前で涙なんか見せるもんじゃねぇんだぜぇ!

 それにゆーとみーには大事な使命があるんだぜ。
 こーちゃんに課せられた、重大任務なんだ。
 前陽大がしんどくならないか気をつけて見て、ちょっとでも疲れちゃったらすぐお開きにする。
 あと、前陽大に余計なこと言ったりするヤツがいないか、側について見張る。
 『ゆーとみーなら楽勝だよな?』って、こーちゃんに言われたんだもん。
 『こういう役割を任せるのに、お前ら程、適任は居ねえ』って信頼されてるんだから。

 泣いてばっかのひさしやそーすけよりも頼ってくれてるし、そこの旭とかウザサコンやウザコマより仲良しだもんね!
 お母さんだって、ゆーとみーから離れないで、皆と喋ってる。
 どーだ、参ったか。
 こうしている間にも油断は禁物!
 こーちゃんが特寮デリバリーで手配してくれた、フライドチキンを齧りながら、前陽大から目を離さない、僕らは優秀なガードマンだ。
 
 ふっふん、風紀もいるけど、ゆーとみーのが頼りになるんじゃない?!
 …「あの日」だって。
 僕らがしっかり側にいたら、あんな事にならなかった。
 あの日の、こーちゃんに抱えられてぐったりした前陽大を想い出して、胸がキモチ悪いぐらい痛くなったから、手を繋ぎ合った。
 同じ手、同じ体温にちょっと安心して、にこにこしている前陽大の横顔を見た。

 元気そうだ。
 良かったぁ。
 本当に良かった。

 だけど、僕らのお母さんは痩せてしまった。
 側に居るだけであったかい、優しいお母さんは、笑っているけどずっと緊張してる。
 あれから、すごくすごく長い時間が経った。
 秋から急に冬になって、再来週の期末試験が終わったらもう冬休み、クリスマスだ。
 久しぶりすぎる緊張感もあると想う。
 でもそれだけじゃない、
 
 すぐお開きにして、守ってあげることは簡単かも知れない。
 それは正解じゃない気がして、だから側で見守っている。
 「優月さん、満月さん?ちゃんと召し上がっておられます?ほら、お2人の好きなポテトフライが揚げたて山盛りですよー」
 「「ウン!食べる!一緒にね、お母さん」」
 「ええ、俺もいただきます」
 前陽大は、今日も優しい。

 いなくなってから、ゆーとみーがどんなに寂しかったか。
 それよりもっと、どれだけ悔しかったか。
 ゆー達がくだらない企み考えないで、すぐお母さんの味方になってあげていたら。
 ちゃんと見てあげていたら、お母さんは傷つかなかったのに。
 こーちゃんを責める人も、いっぱいいた。
 いつもそう、何か悪いことが起こったら、全部こーちゃんの所為なんだ、この学園は。
 良いことをしても誉めないクセに、悪いことは全部こーちゃんの責任で。

 今回も、こーちゃんが生徒会に無理矢理入れたからだ、学祭前に無視したからだって、どんな考えがあるにせよ詰めが甘いこーちゃんが全部悪いって。
 最後にお母さんを助け出したのは、誰?
 ゆーとみーは全部見ていただけで、こーちゃんは悪くないって、皆に言えなかった。
 後になってこーちゃんに泣きながら謝ったら、謝る代わりにできる事を頑張ろうって、今日を任されたんだ。
 『陽大がもし帰って来たら、ゆーとみーが企画したおかえりなさいパーティーしよう』って。

 3大勢力なんか大キライ。
 3年生も旭も1年A組とかも、面倒くさくて大キライなの。
 本当の本当は、こーちゃんと前陽大とゆーみーの4人だけで、皆でごはん作って食べて、のんびりしたかったの。
 でも皆、前陽大を大事に想ってる、寂しがってるのがわかったから、頑張ったんだ。
 招待状作って、ケンカは絶対しないように、お母さんにあの日の話をしないように、1人1人に説明してわかってもらった。

 主役が来るかどうかわからないパーティーの準備、お料理の打ち合わせも、こーちゃんのお部屋を借りて飾りつけるのも、一生懸命頑張った。
 頑張ったら、前陽大は帰って来て、ゆーとみーの目の前に居る。
 もう今はそれだけで嬉しくて、楽しくて、とっても幸せなんだ。
 頑張るのなんか大キライだけど、頑張って良かった。
 やっぱりゆーとみーは、前陽大のことが大好き。
 「あの日」の事、どうしても消えないけど。
 もう2度とあんな事が起こらない様に、ゆーとみーも気をつける。

 でもね、こーちゃんと前陽大が部屋に入って来た時、とってもお似合いだって想った。
 内緒の話、2人で目を合わせてこっそり笑って。
 またすぐ、お母さんを振り返った。
 「「お母さん、ケチャップつけてー」」
 「はいはい、この器に入れてディップしちゃいましょうねぇ」
 うん、今はこの時間を一緒に楽しもう。
 もう少ししたらお開きにして、また週明けから生徒会とか一緒に頑張ろうね。

 おかえりなさい、お母さん!



 2014.6.13(fri)23:00筆


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