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 しばらくじいっと見つめられ、視線を逸らせないまんま、風がぴゅうぴゅう吹く音に耳を澄ませていた。
 あまりに真剣だから、笑ってごまかすこともできない。
 どうしたらいいのでしょうか、この状態。
 どうすることがベストなのか、ぜひともご教授願いたい。
 「柾先輩?」
 試しにそうっと呼びかけてみたら、ふっと表情が和らいだ。
 ドキリと心臓が音を立てたけれど、シリアスな空気より大分マシだと自分に言い聞かせた。

 「陽大、鼻の頭、赤くなってんな」
 「へっ?」
 おっとっとー?
 ちょっとまさか、あれだけ硬い表情だったのに、ずっと俺の鼻とか顔とか眺めて、面白いなぁって考えていたんじゃないでしょうねぇ。
 やはり本質は面白がりの笑い上戸なんだ。
 くぬぬっとしかめっ面の俺を構わず、先輩はマイペースだった。

 「早く部屋入んないとな。風邪引かない様に気を付けねえと」
 「大丈夫ですけれども。俺、丈夫で健康が取り柄ですから。あったかく着込んでますしね、チョコで甘々ですし」
 「確かにムクムクしてるけど?んー、だから率直に話すな。嘘偽りない俺の本音っつか、陽大に嘘吐いた事なんか無えけど」
 柾先輩の本音?
 どんな話を受け入れるよりも怖いと、ヒヤリとなる。
 何を言われるのだろうか、でも、ちゃんと聞かなくちゃ。
 
 「十八学園は、諸先輩方や現役の努力の甲斐あって、大方変わってきてる。下らない悪習の繰り返しを止めて、家柄や外見だけで選良せず、適材適所を目指してきた。周りに流されず、自分の頭で考え、判断して行動するように、真に自主性が持てる学園となるように。
 意欲のある奴が抜きん出る、それを見て刺激を受けた奴が続く。理想論かも知れねえ、けど個々の長所を伸ばせて活かせたら面白いんじゃねえか。外見だけ取り繕って卒業したら終わり、そんなのつまんねえ。ガキの頃の充実した想い出は、社会に出た後こそ良い作用を及ぼすっつーか…単純に、楽しいだろうって想った。だから俺は生徒会長になる事を選んだ」

 明かされる強い覚悟を、瞬きもできずにただ聴いた。
 聴くこと、瞳を逸らさないことで精一杯だった。

 「来年入学してくるだろう、現中等部の連中には既にその原型がある。表の3大勢力は無くさねえ、けど中心メンバーは外見じゃなく、能力を買われた奴らばかりだ。それを生徒達も認めてる。奴らに任せてりゃ安心だって、その後になる程、実力重視になってきている。
 けど俺は、ずっと今ひとつ足りねえと想ってた。極端な話、能力があれば外見は勝手に整ってくる。オーラだの何だの、後から本人次第でどうにでもなる。周りからの扱いで人は変わる。そうじゃねえ、根本的な人柄は外からどうにもなんねえだろ。演じるのも限界がある。能力を重視して、合理的になるだけじゃ意味無え」
 
 深い眼差しに接していると、強い光に包みこまれるようだった。
 安心と同時に、泣きそうな気持ちになった。
 そんなふうに見ないでくださいって、心の中で呟いていた。
 
 「何度も言ってるけど…生徒会には、いや、これからの十八学園には陽大が必要なんだ。お前の誰にも真似できねえ、あったかい人柄こそ此所に1番足りないものだった。
 勿論、陽大が辛いなら無理強いはしない。どうしたってお前は目立つ。なかなか居ない、芯から大らかで優しい人間だから、集団にいると浮き上がるし、陽大もそれに恐縮するだろ。前に立つ事で中和はできる代わりに、反感持つ奴は黙っていない。酷な話、お前を支持する人間が増えた分、敵の姿もよく見えるようになる。
 俺はそれでも、陽大には生徒会役員で居て欲しい。俺には陽大が必要なんだ。お前が会長云々になるかどうか別として、考えて欲しい。もう無理に話進めねえし、結論は急がない。俺が在職している間に答えを聞かせてくれないか」

 言葉の余韻が、身体中に染み渡るまで、ぼんやり先輩を見上げたまま。
 把握できてから、こくこくと、何回か頷いた。
 緩やかに首を傾げる先輩に、ちゃんと言わなくちゃ。
 俺の今の気持ちをちゃんと、嬉しいって。
 「あの…そのように言っていただけて、身に余る光栄と言うか…何と言うか、俺なんかでよければ、またお手伝いさせていただけますか?先輩が作った道が、これからどうなっていくのか、俺も、見てみたいです」

 だけどうまく言葉にならなくて、後はもう、よろしくお願いしますと頭を下げることでいっぱいいっぱいだった。



 2014.6.2(mon)23:57筆


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