4.武士道ロック(5)by 頓田
ぜってー許せねぇ。
ぜってーぶっ潰す。
ぜってー街からも社会からも抹殺してやんぜ。
誰にも止めらんねー激情と決意が、俺を、俺らを動かしている。
俺らの大事な大事なお母さんを、とんでもない目に遭わせてくれやがった、この落とし前、付けずに帰れるかってぇの。
元々この数カ月、燻ってたフラストレーションで爆発寸前だった。
自爆も目の前、チーム内での小競り合いも正直、俺は幹部のクセして止める気なくて。
お母さんが近くに居るのに、全然守れない。
お母さんが俺らにどんだけ優しく接してくれたか、どんだけ癒してくれたか計り知れないのに、俺は何も返せないどころか、力にもなれてない。
挙げ句、この顛末。
しかも最終的にはやっぱり、あのクソ会長が動いて解決した。
冗談じゃねぇっての。
ナニやってんだよ、俺は!!
武士道って括りにこだわり過ぎて、とらわれ過ぎて、何か見失ってた。
それで大事な人を傷付けて、目の前で失う様な羽目になって、マジで大馬鹿じゃね。
馬鹿にも程があるっつーの、男として大丈夫かっつー話。
もう武士道とか3大勢力とか親とか何とか、全部どーでもいーわ。
俺は俺のやりたい様にやる、落とし前つける。
お母さんを傷付けた奴ら全員、地獄に送ってやらねーと気が済まねぇ。
…怖かっただろう、な。
痛かっただろう、絶望すらしたかもな。
俺らが喧嘩する現場とか、直接見た事ねぇし、参加させた事もない。
男らしさに強く憧れてるお母さんだけど、実際、俺らは危険に近付けない様に守るばっかりで。
もっと教えときゃ良かった。
せめて防御できる様に、いろんな事をもっと。
お母さんに起こった事は学園では珍しくない、下界でも起こっている現実で、守るだけじゃなくて立ち向かい方や回避や、お母さん自身が強くなれる事を教えてりゃ良かった。
俺らの油断だ。
武士道語って、てめーらの強さに酔って、俺ら付いてりゃお母さんだって無敵だしって調子づいてたから。
けど、後悔したって遅ぇんだよな。
すげー遅い。
今更想い知ったって、もう実際にコトは起こって終わった。
だから今、俺にできる事で一矢でも報う。
お母さんが味わった恐怖とか痛みよりもっと、地獄見せて味合わせてやんよ。
例え誰と刺し違えたって俺はもう、後には退かねぇ。
後手に回ってコソコソ様子見してんのは御免だ。
最初っからこうしてりゃ良かったんだ。
1人でだって行く覚悟だった。
冷静にブチギレてた総長と副長に、特攻隊長として下りろって言われるまでもなかったけど。
人数居るのは有り難い、特攻組を引き連れて、吉河から送られてくる情報を元に下界を徘徊した。
十八組も下界組も全員無言で、全員、同じ想いみてーだった。
俺らのお母さんを傷付けた、それだけで動く理由は十分だ。
込み上げてくる尽きない怒りも後悔も、総長以下皆同じで、それを堪えて元凶にぶつける為に一丸となっていた。
敵は最近、下界でも幅利かせ始めてた、悪どさで有名な新興チーム。
チャラついた身なりの割に腕も立ち、親の権力振りかざして女にも暴力振るったり、犯罪絡みもやりたい放題、如何にも俺らとは合わねぇバカ猿ばっかの集まりだ。
その悪業三昧も今日限りで永遠に終わりだ。
俺はよ、見知らぬ他人がどう生きようが関心ねぇけど。
お母さんの笑顔をぶっ壊すヤツは素通りできねぇ。
バカ猿によく似たクソガキだった俺を、にっこり笑って受け入れてくれた、あったかいメシを食わせてくれた。
いつもにこにこして優しかったお母さんを想い浮かべ、一瞬目を閉じた。
バカ猿達がたむろってるらしい、街外れの倉庫を改造したクラブバーを探り当て、バイクで到着した俺ら特攻1番隊は、見つけた旨を報告後、そのまま突撃する事にした。
俺が扉を蹴破り、バイクに乗ったままの連中が中へ入って。
目を疑った。
猛獣が暴れた跡、一言で言い表すならそれだけだ。
バカ猿共は1人残らずピクリともせず床に倒れ、辺りには血の匂いが立ち込め、ガラスというガラスは砕け散り、恐らくすげー派手な装飾だったであろう室内は、滅茶苦茶に荒らされていた。
完膚無く、全てだ。
それもたった今、ぶっ壊された気配だ。
呆然と見渡していると、ふと物音がして目を上げた。
奥の扉を複数の人影が去って行くのが見えた。
「ってめぇらか…?!待てっ」
「頓田さん、待って下さいっ」
バイクから降りた1人が駆け寄って来て、俺の腕を引いた。
「コレ…『壱』じゃないスか…」
惨状を見ながら、顔色を悪くするヤツの手を払う。
「バカ言え!『壱』なんか都市伝説だろ」
「いえ…俺、見たっスよ、今…間違いなく7人でした」
「俺も見たっス!しかもウワサ通り、背が高くてガタイ良くて…顔は見えませんでしたが」
口々に色めき立つヤツらを、殴り付けたい気持ちになった。
都市伝説化してて、実際に遭遇したと言い張るヤツからすらまともな話を聞いた事がない。
噂だけのチームなんざ、マジで居るとか想ってんのかよ。
「このやり方、間違いなく『壱』っスよ!ヤツらが去った後には誰も立ってねぇって、側にあるもんは全部破壊し尽くすって」
「仮に『壱』だとしたら…何で動くんだよ、このバカ猿の駆逐によ」
「そりゃ信念スよ。ヤツら、悪名轟くバカしか相手にしねぇって話スから」
納得できねぇ、んなバカげた話。
こーして話してる間にも、とっくにさっき見かけたヤツらは此所から離れて、どっかへ消えちまっただろう。
完全にオチてるバカ猿の1匹を軽く蹴りながら、どうしたもんかとため息が出た。
2014.5.24(sat)23:58筆[ 621/761 ][*prev] [next#]
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