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話してみないと、わからないもんだな。
改めてそんな事に気づいたりした。
一見すると穏やかな家族でも、同じ血が通っていても、ずっと一緒に居ても、お互いの本音なんて腹割って話さねーとわからないんだ。
これで良いんだ、当然わかっていてくれるだろうなんて、甘えた考えは信頼とは言わない。
そりゃそうか、バスケだってミーティングするもんな。
旭先輩はミーティングに熱心で、そこまで話し合わねーでも良いんじゃねって呆れる時もあったけど。
いくら寮生活長いっつっても他人の集まりなんだから、ある程度は共通認識持ってねぇとチームなんて成り立たないよな。
ふわっと空気でわかり合ってるだけじゃ足りないんだ、複数集るとなると、俺ら人間にはやっぱり言葉が必要なんだ。
まして他人じゃない家族なら尚更、話をする機会が必要なのに、お互いに変な甘えがあるっつーか気恥ずかしいっつか。
これからはもっと話そうと想った。
話したくても話せない、わかり合えない家族だって少なくないのに、俺は恵まれてる事に胡座かいてねーで、もっと向き合わねーとな。
理解して貰っただけに、この冬休みを無事に迎えられたなら、親と膝合わせていろいろ話してーなと想った。
明日をも知れない我が身だけに、いきなり退学、一家揃って路頭に迷う事態も考えられるけどさ。
先ずは決意表明だ。
家と話がついてすぐ学園を飛び出し、美郷秀平のテリトリーでその仲間が集う遊び場、繁華街の地下にあるバーに着いたのは、夜中に近い時間だった。
焦る反面、これで柾先輩が上手く逃げ仰せて、実は来てなかったら笑えるよなとか、若干そっち方面で期待しつつ階段を下りて。
絶句した。
血濡れの手で携帯握ってる、元ご主人様の壮絶な姿にも唖然としたけど。
バーのフロアで大勢に囲まれて倒れてる姿は、死んでるとしか想えなくて、俺はまた間に合わなかったのかと血の気が引いた。
まさかの無抵抗なのか。
じゃねーとこんなの納得できない。
喧嘩上等、口達者で逃げ足も速いこの人が、こんなボロボロに痛めつけられるとか。
「喧嘩道」見てりゃわかる、日常の所作そのものが、武道で名を馳せる日和佐風紀委員長より圧倒的なのに。
かろうじて支えて、肩を貸したら歩いてくれたから、生きてるとホッとした。
つーか救急車呼ぶべきだよな、タク捉まえて帰るつもりだったけど無理だろ。
下手に動かさない方が良い気もする。
相当なダメージを受けてる筈なのに、呻き声1つ上げないのが逆に怖い。
何とか階段を上がり、地上に出た所で、街路樹を支えに待っていて貰おうとした。
「…柾先輩、すぐ、」
手配しますと、携帯に触れた手はそのまま固まった。
常と変わらない、強い光を帯びた眼差しに制されたから。
「ちょ、先輩!動かない方が…!」
骨を数本折られててもおかしくない。
当たり所が悪くて、急所ヤラれてる可能性も高い。
なのに柾先輩は、血を流しながら微笑った。
「…ありがとうな、大介。マジ助かった」
そんな場合じゃないでしょう。
俺に礼とか、そんなのさぁ、今必要ねーじゃん。
あんたはとにかく頑張り通しだ、傷だらけでボロボロじゃん、下手したら入院ものだろ。
絶対安静だって。
言葉にならない内に、先輩は俺から離れた。
「悪ぃ、行く所あるから。此所で別れるな。お前は早く帰れ」
「は…?!行く所って、ちょっと、柾先輩!!」
この上、何処に行くってんだ、何があるって言うんだよ。
張りついてでも行かせねぇと、とにかく病院が先だろって引き止めようとした、まっすぐにこちらを振り返った瞳に、また気圧された。
「俺は大丈夫だ」
大丈夫じゃないって。
けど俺の足も口も微塵にも動かせず、息を詰めて、悠々と去って行く背中を見届けるしかできなかった。
5.22(thu)0:34筆[ 620/761 ][*prev] [next#]
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