2.音成大介


 1度覚悟決めたら、後は簡単だった。
 窓のない部屋の中はまっ暗で、外に何があるかわからなかった。
 わからないから怖くて、こんな暗い部屋でも失いたくないと必死で引き隠っていた。
 けど想いきって扉を開け、外へ出たら明るい朝で、まっ青な空が広がっていた。
 そんな感じだ。
 何だ、晴れてるじゃんって。
 特別怖がる必要なかったじゃんって。

 俺の家は、美郷に従属している以外は至って平和だけど、俺が美郷秀平の意向に反するとなったらそれは覆り、家族に迷惑が及びかねない。
 でも、どうしても看過できなかった。
 柾先輩を呼び出して痛めつけるって話、耳にしてしまったら「はい、わかりました」と頷けなかった。
 音成より美郷より、遥かに巨きな家の人で、社会的権力云々差し置いても、先輩はとてつもなく強い。

 俺の手助けなんて不要かも知れない。
 現実の話、先輩が望みさえすれば、何だって叶うだろう。
 それでも放っておけなかった。
 俺の中で無性に、このままで良いのかって葛藤が起こった。
 正義とか美学とか、ちょっとした友情とか後輩としての建前とか、そんなおキレイなもんじゃない。

 ここでスルーしたら、一生後悔する。
 男として、2度と立てなくなる。
 目を背けて良い従者然と振る舞ったが最後、後でどんな善行積もうとも取り返せない、一生媚びへつらったまま生きる事になりそうで。
 嫌だと、はっきり想った。
 合原や九だって頑張った、はるともものすげー頑張った。

 柾先輩なんか、本来なら高みから全部見下ろして、口で指示出してりゃ良い存在なのに、誰よりも率先して前線に立ち、誰よりも身体張ってる。
 俺は何してた?
 友達が頑張ってんのに、トップに立つ人が骨身削ってんのに、コソコソ後ろで這い回って結局空回りして、誰のことも助けられなかった。
 大事な友達の大ピンチ中、無意味に走り回っただけだ。

 こんな自分は許せない。
 一生の安泰が約束されたとしても御免だ、要らない。
 勘当上等、家を出る覚悟で親に電話した。
 友達の為に、先輩の為に、いや、俺の為に美郷秀平に歯向かうって。
 後悔したくない、どうせ後悔するなら自分の本心に逆らいたくないって。
 激怒の声を予想した、俺を両親は一言も責めずただ、「そうか。わかった」と受け入れてくれた。

 「大介の想う様に生きなさい」と、「やっと本心を明かしてくれた」と。
 親からすれば、ガキの頃から美郷秀平の言いなりで、早々にイエスマンなサラリーマン化していた俺が気掛かりだったそうだ。
 特に苦痛を感じた事はない、美郷家はクールで理性的だから、常軌を逸する命令を下された事は幸運にもない。
 これが俺の仕事、役割だと想っていたから、無理してきたつもりはない。
 けど親からすれば、生まれた時からいきなり人生決まってて、反抗なくその道のままに歩いて行く姿に不安を覚えていた様だ。



 2014.5.21(wed)23:36筆


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