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何度も足がもつれて、転びかけて、その度に後ろを振り返った。
誰も追いかけてこないのを確認して、でも安心なんてどこにもない。
「うう…っ…!」
木の根や草っぱらを走るのに、こんな靴じゃ全然ダメだ!
早く!
早く!!
ローファーを脱ぎ捨てて、それを拾う余裕なんかなくて、また走り出す。
オレは走るの得意なのに、逃げるのも得意なのに、足が重い。
早くしないと!!
本気で急いでるのに、どうして上手く動いてくれないんだ?!
涙が止まらない。
でも拭ってるヒマなんかない。
息が切れても走り続けるしかない。
早く、誰かっ!!
兄ちゃん、お願いだから、はるとを守って…!!
オレはもう今後、何にも悪い事しないから!!
マジメにガッコに通って、授業もちゃんと受けて、夜遊びとかバカみたいにケンカすんのも止める。
野菜もちゃんと食べる、好き嫌いしない!!
頑張るから、良い子でいるから、はるとを守って!!
こうやってオレだけ逃げて走ってるのが、大間違いな気がしてしょうがない。
その恐怖からも逃れるように、必死でスピードを上げた。
『穂さんっ早く…!!』
アイツらを突き飛ばして、オレを逃してくれたはると。
やっぱりオレも残って、アイツらと戦ったら良かったんじゃないか?!
その方が2人共、助かったんじゃないか?!
今からでも戻った方が良いんじゃないか。
「うっうえっ…っく」
手遅れだ。
最初見た時から、アイツらは何か違ってた。
ヤバいヤツらだって、人数もガタイも、オレじゃ叶わないかもって。
目がヤバくて。
蛇の様な目で、舐め回す様に見られた事を思い出して、喉の奥が引き攣る。
ダメだ、このまま走り続けて、誰か呼ぶしかない!!
携帯は目の前で壊されちまった。
じゃあ、走るしかないんだ。
折角はるとが逃がしてくれたんだ、無駄にはしない!!
絶対、助ける!!
だから兄ちゃん、はるとを守ってて!!
祈るように強く兄ちゃんを想った。
「九!!」
その瞬間、鋭い声が聞こえて、自然に足が止まった。
「お前だけか?!」
昴、だ。
汗を浮かべて、すげー形相の昴が駆け寄って来て、夢じゃないかと思って目を擦った。
嗚咽が込み上げてきて、でもダメだ、泣いてる場合じゃない!!
唇を噛み締めて堪えた。
「昴!!はるとがっ、はるとがっオレを逃がしてくれてっ!!頼むっ、助けてっ!はるとを助けてぇっ…うぇっ…うっ…ヒ、ヒロが!!オレ達、ヒロに騙されてっ!!具合悪そうにしてたからっ、でも近寄った途端に気絶させられてっ、アイツら、絶対ヤバいんだっ!!この先の、変な倉庫みたいな所っ…昴、早くっ!!」
叫ぶ様に言って、それが限界だった。
昴はオレの目を覗き込み、静かに一言だけ言った。
「わかった」
「「「「柾様!」」」」
「一平、各自に連絡。太朗は九に付いて、後は頼む。晴海(はるみ)と尚は俺に続け」
「「「「御意」」」」
いつの間に、何が起こったんだ?
いつの間に、こいつら何処から出て来た?
見た事ある顔も、知らない顔も、あっと言う間に散って行く。
誰よりも早く、昴が先陣を切って駆け抜ける。
オレは誰かに優しく背中を撫でられながら、重くなる目を擦って、必死に願った。
「はると…早く、助けてやってっ」
「ダイジョーブ。All right、全部ダイジョーブ、してみせまーすカラネ」
2014.5.6(tue)23:50筆[ 609/761 ][*prev] [next#]
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