9.目に映るは優しい世界
世界は、桜色だった。
寮から校舎までの道中、両側には桜・桜・桜…
淡かったり濃かったり、いろいろなグラデーションだったり、光の加減でまた違ったり…
それぞれの木、それぞれの桜色がそれぞれの形で広がっていて、どこを見ても見飽きない。
それはうつくしい光景だった。
あ〜…お花見したい…!!
一体、この学校にはどれだけの種類の桜が咲いているんだろう?
名前を確認しながら歩くだけでも、きっと楽しいはず。
昨日はただ、桜がキレイだなあって、想っていた。
山の中だからかな、すこぅし冷たい、できたての朝の空気の中、改めて見るとほんとうに綺麗で、今日がとても新鮮で。
上空から学校を眺めてみたいな。
たくさんの緑と、たくさんの桜色が見えて、それはそれは綺麗だろう。
いい所に来ちゃったなぁ…
桜って、季節の区切り、生活の区切りを知らせてくれる存在だとも想う。
新しいスタートを切る時、桜が咲いていると、とてもうれしい。
いつの間にか芽吹いて、蕾をたくさんつけ、ぱっと咲いて散る、最初から最後まで、花が散る姿、花弁で埋め尽くされる道、散った後の新緑すらうつくしいから。
入学式の今日、こんなにたくさんの桜が満開で、うれしいな。
天気もいいし、ほんとううれしい。
入学式が終わったら、美山さんといっしょにいっぱい写メるぞ〜!
頷いてくれたけれど、美山さん、付き合ってくれるかな…?
楽しみだ〜!!
…と、すべてを桜に奪われていた俺を、美山さんはきちんと引率し、校舎まで連れて来てくださった。
いつの間にか掲示板の前、いつの間にかクラス発表の張り紙を見上げていて。
美山さんのお名前も、俺の名前も、すぐに見つかった。
なぜなら張り紙のトップ、A組から順に見て行った所、美山さんも俺もA組だったからだ。
いっしょのクラス…!
心強いなぁ、うれしいなぁ…
へにゃへにゃ笑いが絶えない俺に、呆れもせず、美山さんはいっしょのクラスだという現実を受け入れてくださったようだった。
いい人だなぁ…
これ以上ご迷惑おかけしないように、しっかりしなくちゃ!
そのまま、再び美山さんに連れられて、校舎の中へ入った。
俺がぼーっと桜を見ていたせいで、もう8時55分…!!
美山さんは淡々と、階段を上がって行く。
決意したばっかりなのに、早速ご迷惑おかけしている。
今はとにかく先を急ぐけれど、あとでお詫びしなくちゃ。
…しかし、校舎の内装も外装も凝っていらっしゃる…
格調高いリネンのレースが歴史を重ねた如き、オールドレース色の階段と、いい風合いを醸し出している、鈍い金色の手すりつき階段も然ることながら…
堅すぎず柔らか過ぎないちょうどいい歩き心地、エバーグリーンの絨毯が敷き詰められた廊下もなかなか…
…いかん、いかん!!
校舎内探検は後だ、後!!
これから毎日、いくらでも自由に探索できるんだから!!
これから3年間、隅から隅まで調べあげてやるんだから!!
今はクラス、えーっと…A組だっけ?に、向かうことが最優先!!
俺はすぐ思考の旅へ出てしまうからな!!
集中集中!!
料理の時は料理のことしか考えないのになぁ…
不思議だなぁ…
我ながら不思議だ、常から集中力散漫なのに…って、だからまたいきなり散漫になってるし!!
「……着いたぞ」
ってほら、着いちゃったし!!
も、俺、ぜんっぜんここまでの経路、わかってない。
ぜんっぜん頭に入ってない。
はい!じゃ、ここから1人で寮まで帰ってね〜って言われたら、1秒で無理ですって即答できる。
俺、ちょっと浮かれ過ぎだ〜…
「……美山さん」
「あ?」
「あのう…俺、恥ずかしながらずっと周りの景色に夢中で…道をまったく把握しておりません…申し訳ないのですが、帰りもいっしょに帰って頂いてもよろしいでしょうか…?」
コソコソとお伺いを立てたら。
美山さんは、きょとんとした後、眉間にシワを寄せ。
眉間とは反対に、今にも笑い出しそうな、微妙に口角が上がった唇で。
「てめぇがボケっとしてんのなんか、寮からずっとわかってる。どーせ帰る部屋は同じだろ、余計な心配すんな」
ぶっきらぼうに言って、俺の額を小突き、背中を押してくれた。
「入んぞ」
「はい!ありがとうございます!」
よかった〜…
よし!
今夜もし、いっしょに夕食を食べるようだったら、美山さんのお好きなものを作ろうっと!
2010-05-16 22:28筆[ 61/761 ][*prev] [next#]
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