73.銀いろ狼ちゃんの計算(7)
地道な行動なんて性に合わないんだよね、俺もコイツらも。
それでも仕方ない、大事なあの子の為なら、ね。
かったるいったらない、下界に居る方がマシだけど。
正面から斬り込んで、喧嘩強いヤツが勝ちって、単純な条件下で策略巡らすのが楽しいのに。
はるるの笑顔の為なら我慢する。
コツコツコツコツ、亀にでも何にでもなってやるよ。
地道活動は遂に祭り当日にまで持ち込まれ、終着点はもうすぐそこ、店番は下の奴らに任せて、俺はホームで一眠り。
祭りなんて、はるるが側に居ないなら参加する意味もない。
はるるの為に作ったこの十八版ホームも、本人居なかったら色褪せて見える。
ホントなら今頃、がっつりべったり一緒に居れる筈だったのに、マジどうしてくれんのあのチワワちゃん達。
ため息と同時に、浮かぶのは嘲笑で。
叩けば叩くだけ埃が出る、愛くるしいチワワちゃん達、親の権力を笠に着て勘違いしちゃってる典型的なお坊ちゃん達を、突き落として上げる準備は整い始めた。
最近は更に好都合な事に、下界でもタチの悪さで名を馳せてるチームのメンバーと頻繁に接触してるらしーし?
そのメンバーの一部もウチに居るとか、このキナ臭い繋がり、暴いてやったらヤツらの退学は間違いない。
殴って終わりが1番ラクだけどねー。
いずれにせよ、はるるに嫌がらせしてくれちゃってるお返しと、俺らにも絡み始めたウザいチームの壊滅と、どっちも叶えられるなら良しとしよう。
いいや、それだけじゃ俺の溜まりに溜まったストレスは解消しない。
そもそも俺らとはるるの距離が空いた、根本的な原因ってやつ。
祭りが終わったら、昴をボコんないと気が済まない。
互いにまともに話す時間がなかったから、あいつがナニ考えてんのか、いつも以上に意味不明だったけど。
はるるに何のフォローもせず放置して、数日前は廊下でスルーしたって?
許せねぇ。
大体あいつの隊の不始末だ、万事上手く治まらせた後、闇討ち決定。
その為にも今の内に体力温存しないとね。
「一成〜行かねぇのかよ」
「うるっせぇよ、仁。黙ってろ」
「あ、そ。俺は行くけどね〜昼過ぎにはると、俺らの店来るっつってたし〜」
その後頭部に、アイマスク代わりに使ってた雑誌を投げつけ、起き上がった。
「いってぇな!!」
「それを早く言えっての、でくの坊!」
「あぁ?!」
「あぁ?!」
ホントなら、強烈なデコピンが飛んでくる筈なのに。
殺気立ったまま、顔を逸らし立ち上がる。
取り敢えず俺の癒しに会いたい。
髪をかき上げて息を吐いた、その時、俄に外が騒がしくなった。
見張りしてた下っ端ともみ合う声、バタバタと数人の足音が廊下を騒がしく軋ませる。
誰のお出まし〜?
場合に因っては加減なくヤっちゃうよ?
俺は肩を回し、仁は指を鳴らした、程なくして扉が爆破の勢いで開いた。
祭りの隙を狙ったハグレ不良の襲撃かと想ったら、入って来たのはチワワちゃんの中のチワワ、合原心春ちゃんで。
はるるの友人として奮闘してくれてる、まだ警戒解けないものの、ちょっと見直し中の人物が、いつになく息を切らして青ざめている様子に、仁と素早く目を合わせた。
何なの、コレ。
とんでもなく嫌な予感がする。
「加賀野井様っ、成勢様っ…!!はるとっ、はると達を知りませんかっ?!ここに来てませんかっ」
息する間も惜しいぐらい必死の形相に、心臓が騒いだ。
「…来てねぇよ、俺ら以外、誰も居ねぇ」
「そんな…っ!!はると、穂…!!」
「どうしたの、心春ちゃん。落ち着いて話して」
落ち着いて聞いてらんねぇかも知れないけど。
「待ち合わせ、してたんです、2人と…っ昼から一緒に回ろうって!!はるとは生徒会の仕事があるし、穂は途中まで一緒だったのに、あのバカ、ふらふらどっか紛れて…!!でも場所も時間も決めてたしっ、ちょっとでも遅れるなら絶対連絡してって!!でも2人共来ないしっ、携帯も電源切れてるみたいで…どうしよう…!!お願いします、一緒に探してくださいっ!!」
全部聞き終わる前に、俺は走り出していた。
頭ん中には、はるるの笑顔しか浮かばなかった。
2014.5.6(tue)22:14筆[ 606/761 ][*prev] [next#]
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