66.孤独な一匹狼ちゃんの心の中(16)
何のチャイムだ、これ。
廊下にたむろってた生徒共が、一斉にバタバタ動き出すのを見て、昼休み終わりの予鈴かと悟った。
かったりぃ。
俺にはどの道、関係ねー。
確か今日から、5、6限は祭りの準備に費やされる筈だ。
やってられるか。
気持ち悪ぃ事態になってから、尚の事、俺の足はクラスから遠退いた。
またか、っつーウザさと、どーせクソ会長が上手く対処すんだろと想って。
前の周りは大物揃いだ、どうにでもなるだろーし。
けど、珍しい事に未だ沈黙してやがるな。
例の婚約者云々関連で、お家騒動的な何かあんのか。
単純に祭り準備に追われてんのか。
クソ会長始め3大勢力諸々は、前から距離を置いて静観してるみてーだ。
庇護が外れるわけねーだろーが、いつになく奇妙だ。
その内動き出すだろーが。
被害は前本人より、側に居る合原と穂に降りかかってやがる。
あれだけ「お母さん、お母さん」言ってたクラスの雰囲気は険悪で、3人元々存在しなかった様に扱っている。
面倒くせー。
早く終われ、ちゃちなイジメとか、マジ怠ぃんだよ。
以前の「クラス一丸」みてーな暑苦しいのもウゼぇが、ネチネチ鬱陶しいのに比べりゃマシだ。
直接関わらないにしても、何か面倒くせー。
くだらねーガキばっか。
此所は特に、頭イカレたバカ共だらけで吐き気がする。
だから人と関わんのは厄介なんだ。
まともに信じるもんじゃねー、現にあれだけベタベタしてた連中が、不確かな号外如きで手の平返して敵になるんだからな。
でも事態が収束したら、また甘えた声出して擦り寄ってくんだろ。
あー気持ち悪ぃ。
1人で居るのが1番気楽だ。
誰とつるんでもろくな事ねーよ。
イラついて、煙草を吸いたくなったから、中庭を通る事にした。
何やら騒がしく、人の声がすると舌打ちしたら、そこではまさに考えていた通りの面倒が起こっていた。
合原と前、その前に穂が庇う様に立って、何か喚いてやがる。
穂の視線の先には、合原とよくつるんでたクソ会長の親衛隊員数人と…武士道には属していない、ガラの悪いハグレ者共が居て。
素通りしようと想った、足を止めた。
穂が善戦してるみてーだが、多勢にも程があるだろ。
何も言わず加勢した、俺の姿を認めるなり、ヤツらは負け犬の遠吠えを残して走り去って行った。
「ミキっ!!やっぱりお前、良いヤツだったんだなっ!!」
「ちっ、うるっせー。そんなんじゃねー、たまたま暇潰しだ」
「美山様、ありがとうございます。暇潰しでも助かりました」
ウゼぇっての、合原もキャラ変わり過ぎだろ、俺に頭下げんな。
「美山さん、ほんとうにありがとうございました」
前は、変わらない。
いつも何か起こる度、不安そうにしてなかったか、コイツ。
笑って礼を言う顔は、元気な時と同じだった。
妙に気圧された。
コイツにとって最悪の事態でも、相変わらず真面目に授業に出て、生徒会にも行ってるって、風の噂は本当らしい。
「ミキ、礼にオレのとっておきやるよ!!もーしょうがないなぁ、すっげー愉しみにしてたんだけどー!!マジで助かったからやる!!どーせまだ2個持ってるしな!!ほらっ、はるとが作ってくれたおやつ用おにぎり!!」
穂が人の鳩尾にぶつけてくる勢いで差し出してきた、何か顔の書いてある、どこか懐かしい食いもの。
「は…んでタコと同じ顔ついてんだよ」
「なんだよー!!いーだろ、文句言うならやんねーよ!!折角オレが1番好きな、はるとボール入りなのにー!!」
にこにこ笑ってる前と、「穂…そんなご馳走を渡すなんて…」と絶句してる合原、ある意味ブレずにやかましい穂、手の中のおにぎり。
一見平和そのものだが、ちょっと見てればわかる。
コイツら、流石に疲れてる。
合原も穂も周りから浮いて、口も手も出されてるらしい、目の奥に疲労感が見えた。
前は笑ってるが、何か痩せたか?
「ふん…コレの礼に、また何かあったら呼べ。手ぇ空いてたらフォローしてやる」
俺には関係ねーのに、勝手に口から出た言葉に、3人揃って目を見張ってる。
これ以上この場に居ると、もっと余計な事を言いそうで、「予鈴鳴ったんだろ。さっさと行けよ。じゃーな」と背を向けた。
「「「あ!!やばい!!」」」
慌てて駆け出す音がして、静かになってから煙草を取り出した。
つーかナニやってんだ、武士道。
あんたらの大事な前陽大、守れてねーじゃねーか。
クソ会長も生徒会も風紀も、3年達も音成も、ナニやってんだ。
隙だらけじゃねーか。
たかが親衛隊如きに手ぇこまねいてんのか。
いつも偉そうなヤツらの情けねー状態に嘲笑と、どこにも属さない俺が助けた事に、久々にスカっとした気分になった。
手の中のおにぎりは、アイツと同じ、のほほんとした笑顔を浮かべている。
2014.5.5(mon)19:40筆[ 599/761 ][*prev] [next#]
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