寮から徒歩10分程(通常は、だ。桜に捕まったから15分程かかった)で、校舎の出入り口が見える。
 8時50分。
 クラス集合10分前、けど、此所ら一帯うるさい。
 掲示板の前は蟻が獲物に群がるが如く、ウゼェ生徒の集団の山が幾つも築かれている。
 ウゼェ…
 持ち上がり式の学校の、クソダリィ特徴の1つだろう。
 既にオトモダチ関係が成り立っている。
 グループでしか行動できねー、愚かな民族だから仕方ねーっつーのか…

 更に気色悪ぃ事に、この学園の悪しき風習は、生徒1人1人に否応もなく浸透している。

 集団の山の大半から聞こえる、ド黄色い歓声や落胆のため息、それを堂々と否定できるヤツなんか此所には居ねー。

 想わず舌打ちかました途端、ピーチクパーチクうるさかったそこかしこがこっちを向き、俺を認識して静かになった。
 ここへ来る道中と変わらない、ヒソヒソと陰湿に交わされる言葉、好奇な視線。
 ウゼェ…
 けど、俺にはやる事がある。
 何にも知らねー呑気な外部生の前を、こんな下らねー学園へ放り込んで後は静観するとか、男の風上にも置けねー。
 同室になったのも何かの縁だ。
 せめて、コイツと俺のクラスを確認し、教室へ案内するまで側に居てやろうと想う。
 
 入学式は、フケる。
 終わった頃、迎えに行ってやりゃ良いだろ…
 コイツがこの学園のことを理解し、敷地内を把握するまで、俺が面倒見ねーと…

 「わー、ここも桜・桜・桜…!いいですねぇ、晴れがましいですねぇ…!ね、美山さん。あ、どうしよう…桜餅とか作りたいかも…帰りに落ちてる花をすこし頂いて帰っても宜しいでしょうかねぇ…校則違反ですかねぇ…」

 相変わらず周りを気にしない、超!マイペース七五三ジジィめ…
 適当に頷いてやりながら、袖を引いて、掲示板の前へ向かった。
 蟻達は俺が1歩進む度、道を開けて、どこかへ消えて行った。
 ふん…ウゼェ…
 クラスがわかったら、とっとと移動しろっつーの。
 とにかく、クラスを…


 「あ!はっけーん!!美山さんと俺、同じクラスですね。A組ですって」


 意外に目敏い七五三ジジィの発言は、どうでも良い。
 俺は、A組のメンツを目で追い、衝撃を受けていた。
 なんだ、このフザけたクラス編成…!!
 有り得ねー…
 明らか他クラスに比べて、「異常」に「偏って」やがる… 
 学園の問題児、厄介者、勢揃いじゃねーか!!
 中等部の生徒会長・元親衛隊長に、バスケ部の青春バカ、最も厄介な気色悪ぃ趣味の持ち主…
 数え上げたらキリがねー、どいつもこいつも一癖どころか、他に類のない曲者揃いだ。

 何だ…?
 教師の陰謀か?
 それとも父兄からの要請なのか?

 呆然とする俺の袖を、何かが引っ張った。
 「美山さん?どうなさいました…?」
 見返した瞳は、更に俺を呆然とさせる程、澄んでいて。
 ダメだ。
 入学式フケるどころか、片時もサボれねー…
 俺が僅かでも目を離したら、コイツはどうなる…?
 地獄だ。
 こんなクラスじゃ、1年保つどころか3日でノイローゼだろう。
 いや、1日で登校拒否か。


 俺しか、居ない。


 俺しか、コイツを守れねー。
 なんてこった。
 たまたま同室になった。
 たまたま同じクラスになった。
 たったそれだけで、コイツを守るのが俺しか居ねーとは。

 「……何でもない。行くぞ」
 「???はい。大丈夫ですか?」
 「あぁ…」
 いかにも頼りなさそうなチビガキが、ひょこひょこ隣を歩くのを眺めた。
 守るしかない。
 コイツがいつまでも飄々とした、マイペースなジジィで居られるように。

 「あ!やっぱり美山さんも写メりたかったですか〜?後で撮りましょうね〜折角の晴れの日ですからね!それとも、花より団子で桜餅が気になります?」
 
 そう、こんな風に、呑気に…

 「……って、てめぇ、呑気過ぎんだろーが…」
 「おぉ?!美山さん、ノリツッコミを会得してらっしゃる?!」
 「……してねーし、意味わかんねーし……」
 そうだ、メシを食わせてもらったから。
 今日は俺が食堂か購買か、何か奢ってやろう。
 勝手に決めながら、中等部の頃より悪趣味が増した校舎の中へ入った。



 2010-05-15 22:56筆



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