61.金いろ狼ちゃんの武士道(6)


 トンチンカンよしこが悪態づき、握り潰した号外を拾った。
 はるとのいつもの笑顔だ。
 見てるこっちまで明るくさせる、小競り合いの絶えない武士道も黙らせる笑顔。
 それがたまたま昴に向けられた瞬間、ただの日常が映ってるだけだってのに、胡散臭い言葉の羅列で飾り立てれば、こんな尤もらしい記事になる。
 下らねぇ。

 マジで下らねぇ学園だ。
 この笑顔が今日から曇り続けるのか。
 折角、生徒会活動に何とか馴染み始めたってのに、はるとがまた恐縮するだろうが。
 同時に、今更ながら昴の厄介な立場を想い知った。
 ちょっとばかり目ぇ掛けてただけだろ。
 貴重な人材を推しただけじゃねーか。

 大体、十中八九リアルっぽい婚約者云々話があったから、もう良いじゃねーか。
 誰も軽はずみな行動なんざしてない。
 それぞれの務め果たしてんじゃねーか。
 こんな学園祭前で若干殺気立ってる時期に、わざわざ出すとか、性根腐ってるにも程がある。
 男の嫉妬程、見苦しく鬱陶しいものはねぇなあ。
 んな実感、したくないっつの。

 うんざりと眺めていた号外を、横から掠め取られた。
 朝っぱらから叩き起こされたからだろ、顔色が白い一成だった。
 相変わらず押し黙ったまま、ぐしゃぐしゃの号外のシワを、無表情に伸ばしている。
 なーんだろね。
 ブチギレてる時とまた違う、奇妙なだんまりモードだ。
 これ以上、ウチの副長様を刺激すんのは止めてくんねーものか。

 「…で、総長…この始末、どうします?」
 ヤロー共の中では1番冷静な吉河が、こめかみに青筋浮かべながら口を開いた。
 散々毒づき暴れたヤロー共は、今は俺らの指示を待ってイイ子にしてる。
 視界に入る一成は、一言も喋る様子がない。
 不気味な程、号外のはるとの笑顔を見つめ続けている。
 やーれやれ、だ。

 「どうもこうもねぇ。俺らは変わらねー。はるとを守る。今まで通りだ」
 「「「「「うおおおーーー!!」」」」」
 雄叫びを上げるヤツらを見渡し、ニヤリと笑った。
 「逆にはるとが俺らのものだって、示しつけるつもりでいろ。裏でも表でも、な。はるとに余計なマネする奴ぁ、片っ端から締め上げろ。はるとを独りにすんな」
 更にいきり立つ、こいつらはこいつらでストレス溜まりっぱだったからな。
 
 早速トンチンカンよしこが作戦を練る、その周りに神妙な面持ちで集るヤツらの姿を、はるとに見せてやりてぇと想った。
 祭り準備で忙しくなってから久しく集ってねーしな、コレ見たらはるともちょっとは元気になるんじゃねーか。
 ま、武士道はこれで良いとして、裏3大勢力はどうなるやら。
 今日1日、気ぃ抜けねぇなあ、当分仕方ないか。
 
 ふいに腕を引かれて振り返ると、無表情のままの一成だった。
 何だと目で問えば、きれいに広がった号外を押しつけられた。
 「事は、んな簡単にいかねぇかもね」
 「あ?」
 「はるるのこんな幸せそうな笑顔、見た事ない」
 鬼の目が、鋭く細められた。

 「ああ?気の所為だろ。美味いもん食ってる時と大差ないっつか、はるとはいつも笑ってんじゃん」
 「仁がわからなくても、俺はわかる。俺だけじゃない、一部の人間は勘付くだろうね」
 「どういう事だよ…」
 「昴の隊はバカにできねーって事。富田センパイが居なくても機能するから、あの巨大な隊は。学園に及ぼす影響力もデカい。暫く簡単にははるるに近付けないかもね〜」

 「一成、おい…」
 「昴の隊員構成、幹部も下っ端も生家がデカいヤツらが揃ってる。付き人従えてんのも居るし、風紀に入れる様な武道の心得あるヤツらも多い。下手に手ぇ出すとお家騒動に発展し兼ねない。たかが親衛隊だってナメてたら、『俺ら』全員、喰われるよ。しかも頭に血上って動いてるヤツらだから。富田センパイが静観する筈だよね」
 だからって黙ってるつもりはないけどと、気怠そうに肩を鳴らして。

 「「ちっ、面倒くせぇな〜」」
 同時に声が被った。
 ああ、面倒くせぇなぁ。



 2014.5.3(sat)23:47筆


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