60.化粧オバケの本音 by 心太(6)
寝起きの莉人は機嫌が悪い。
Sっ気全開になるから、マジでウザくて面倒くさい。
だから朝は関わりたくない、けど仕方がない。
仕方なく部屋に乗り込んで(日景館の家から莉人を頼むと一任されている為、俺のカードキーは莉人の部屋に入れるのだ。付き人として存在するヤツらは大抵そうだ。一平先輩の所は少々事情が違う様だが)、案の定、不機嫌になる王子様をベッドから追い出し、どうにか着替えまで導いた。
「俺の優雅な朝を邪魔するからには相応なネタなんだろうなぁ、心太…?」
うるっせぇよ。
ネチネチネチネチ、ウゼぇ事この上ない。
それでもって無意識なんだろう、長年の付き合いである俺に警戒も見せつける気もゼロなのはわかるが、寝起きのフェロモン垂れ流すなっつーの。
悩まし気に髪をかき上げる、アホ王子様の無駄に開いたシャツのボタンを乱暴に留めてやり、テーブルの上にドンと紅茶セットを置いた。
「取り敢えず飲め!」
「…あ?」
「あ?じゃねぇ。KAIDOのダージリンティーセカンドフラッシュの稀少茶葉、シルバーティップス!」
「心太、てめぇ…人が愉しみにしてた貴重な紅茶を…どっから見つけやがった?」
「お前の大事なもんの隠し場所なんて、ちっちぇ頃から変わってねーんだよ!良いからとっとと飲みやがれ」
莉人は俺を睨みつけつつも、漂う香りの誘惑に逆らえなかったのだろう、くだらないあだ名に相応しい仕草でティーカップを傾けた。
静かに流れる時間。
半分程飲んだ所で、漸く目覚めた顔つきになった、そこへこれから起こる新たな騒動を知らせた。
既にバラ撒かれてるだろうけどな。
報告が遅くなったのは、朝に弱い風紀副委員長とはまた違って、変に朝の過ごし方にこだわりあるお前の所為だから。
洗いざらいブチまけた所で息を吐き、怜悧な瞳を細める莉人を見た。
「何と厄介な…祭り前に面倒極まりねぇな」
「って言いながら、ナニ笑ってんだよ」
「俺が?馬鹿な、このクソ忙しい時期に笑い事じゃあるまい」
肩を竦めて心外だと言ってる、お前の本音なんてお見通しなんだよ、俺は。
ずっと見てきたんだ、今、何考えてんのかすぐわかる。
ちょっと愉しんでるだろ。
前陽大の事、気に入ってるから、Sっ気を刺激されてんだろ。
莉人は澄ましてるけど、中身は案外ガキだから、気に入った子はイジめるタイプだ。
それもてめぇの外面守る為に、わからない様にネチネチネチネチ、精神的に責める質の悪さ。
今回の件で、前陽大は孤立化する。
味方は大物揃いだとしても、昴がどう動くかも読めねぇけど、間違いなく表向きは孤立化して、大多数の生徒からやっかまれるだろう。
気の毒に想いながらも、お前の本音半分は真逆にある。
俺らの隊も昴より小さくても、それなりにデカい規模を誇る、外聞上はトラブルの元となった前陽大を庇う訳にいかない。
それをお前は申し訳なく痛ましく想う反面、どこか嬉々として演じるんだろ。
気に入りの子が周囲からイジメられて傷つく、弱々しい手負いの小動物を、自ら更に傷を抉りつつ慰めて手懐ける。
前陽大に関しては、その本性抑えて良い先輩面気取ってきたけど、この1件で崩れるんじゃねぇの。
俺はそんなの、見たくねぇし。
お前が遊んだ後片づけ、もういい加減飽き飽きしてんだよ。
「なぁ、そこで日景館親衛隊長として、お前の付き人として提案がある。つか、俺の言う事聞け」
「心太のクセに偉そうだな」
「うるせぇ。こっちだって祭り前に面倒くせーんだよ。やってらんねーんだよ。生徒会入りの一騒動だけでも腹いっぱいだってのに、柾の隊に振り回されてる暇はねぇ。これ以上、前陽大に関わんな。本人に何の罪もない事はわかってる。人柄の良さもな。けどあの子は台風の目だ。どーせ祭りが始まれば落ち着くだろーけど、この先も何か起こり得るのは確かだろ。同じ生徒会にいるのは仕様がねぇ、必要以上に接触すんな」
淡い色の瞳が、朝日を受けて光っている。
何の驚きもない、淡々とした表情を見据える。
莉人はわざと思案した振りをして、顎に指を添えながら首を傾げた。
「次世代を担う可愛い後輩が不憫で仕方ないが…お前の要求はやむを得んな。勿論、事が大きくなったら俺は動くが、それは構わんのだろう?」
「ああ」
大体なぁ、お前が嗜虐趣味のあるSだって知ったら、前陽大から進んで引いていくだろうよ。
内心で舌打ちしながら、これで莉人はどうにか抑えられたと、1つ案件が片づいた事に指を折る。
後は俺らの隊と一平先輩に「日景館様は関わらない」旨を伝えて。
俺は、個人的に動く。
前君に大きな被害が降りかからない様に、莉人の魔の手が迫らない様に。
それが同情心からなのか何なのか、よくわからないけど、動きたいから動く。
あの子の美味しいお茶がまた飲める様にな!
しかしマジで、祭り前に勘弁して欲しいぜ。
2014.5.3(sat)21:56筆[ 593/761 ][*prev] [next#]
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