59.風紀委員長日誌―同志考察―


 本日、晴天也。
 皮肉な程、晴天也。
 これが秋晴れというものか、残暑の気配を一新する様に清々しい朝だ。
 重苦しい今日の始まりなど、自然は関せずという所なのか。
 それとも、晴れない日はないという暗示か、やがて全て上手く行くと言う現れなのか。
 道着から制服に着替えながら、いきり立つ委員達を横目に眺めた。

 「だから柾には任せておけないんですよ!」
 「毎回毎回、下らないスクープネタになりやがって!てめぇだけならまだしも、1生徒を巻き込むとか有り得ん!」
 「どれだけ学園を騒がせたら気が済むんだ、あのバ会長様は!!」
 「武士道も武士道ですよ!1番彼を守るべきはあの不良共でしょう。近くに居ながらいつも守り切れてないじゃないですか」
 「大体、1Aの連中自体が、」

 呼吸を整え、気合い1点、拳に込めて壁を打った。
 途端に静まり返る。
 造作もない。
 公共物を傷付けるのは本意ではないが、元より年季の入った壁は傷だらけ、些少の事は見逃して頂きたいものだ。
 コンクリートの欠片を手を振って払いながら、連中を見渡した。

 「騒ぐな。小賢しい」
 タイを締め、眼鏡を掛け、出るぞと連中を促した。
 ロッカーを出ると「「「「「ぅお疲れ様でしたっ!ご指導有り難うございました!!」」」」」空手部の連中が朝稽古の手を止め、一斉に礼をした。
 「こちらこそ今朝も世話になった。またよろしく頼む。突然委員達が押し掛け、騒がしくして済まなかった。」
 「押忍!またのご指導心待ちにしておりますっ!!」

 部長の声に応じ、道場を出る前に一礼し、礼をせずに出ようとした委員を叱りつけ、漸く外へ出た。
 出た途端に、連中はまた騒がしくなった。
 「しかし委員長!今回の親衛隊号外は余りに卑劣ですよ!!」
 「何の根拠もない…言い掛かりにも程があります!」
 「富田は何をしてるんでしょうか?!」
 「それぞれの動向次第で、リコール権の発動も考えるべきでは?!」

 全く仕方がない奴らだ。
 「俺はお前達がここまで熱心に食い付く事こそ意外だったが?それも人の朝稽古に乱入する位、度を失うとは如何なものか。風紀委員たるもの、常に冷静な行動が規範であろう」
 やっと我に返ったのだろう。
 全員気まずそうに押し黙ったが、来季、凌に代わって副委員長を務める予定の委員だけが気丈に顔を上げた。

 「けれど日和佐委員長。委員長も怒り心頭でしょう。前陽大を可愛がってお出でなのは風紀の者なら全員理解しております。我々と同様だからこそ、貴重なプライベートだと承知の上で第1報をお持ちしました。無論、渡久山副委員長にも使いを出しております。俺は今すぐ、前陽大を風紀の庇護下に置くべきだと考えます。委員長のお考えをお聞かせ下さい」
 少し動転している連中と違って、落ち着いてはいるようだ。

 「勘違いするな。お前達を責めている訳ではない。迅速な行動は良い。前陽大には世話になっているからな、想い入れも当然であろう。俺とて想う所はある。ただ、落ち着けと言っている」
 木々を揺らす風の音が静まるまで、口を閉ざした。
 今朝の山は穏やかだ。
 嵐の前触れなのか、平穏な日常の約束か。
 どちらも起こり得る、どちらの可能性もこの胸を騒がせる。

 「風紀委員会は何れの部署より冷静で公正に在るべきだ。学園の動向を各所から見ておく様に。隙に乗じた不穏な行動を許すな。前陽大本人に直接被害が起こるとは限らん。周囲の人間にも影響が有り得るだろう。しかし、全ては隠密に、表立って動くと騒ぎを益々冗長しかねん。風紀が前陽大を特別視していると見られたら、今度はこちらに火の手が上がるだろう。さて、今日は忙しくなるぞ。学園祭前という事も忘れるな。俺と凌は主に生徒会と武士道とバスケ部と所古達の動向を探る。行け」
 「「「「「はい!」」」」」

 「あぁ、言い忘れていたな。俺はお前達風紀委員を誇りに想う」
 「「「「「え?」」」」」
 「真相が定かではないゴシップに振り回されず、クンちゃ…前陽大に偏見の目を向ける事なく純粋に怒っていただろう」
 「当然ですよ!お母さんの一生懸命さや人柄は、俺達だってよく知っていますから!」
 自然、口角が上がるのは致し方ない。
 
 「我々は表立って庇護はしない。だが、人目のない所では今まで同様に接しよう。一言二言声を掛けるぐらいはできるだろう。無論、前陽大が窮地に陥った時は、建前も本音も関係ない。状況に応じて、俺や凌に連絡する前に助ける様に。風紀は、前陽大に貰った弁当やドーナッツの恩を裏切らない。良いな」
 「「「「「はいっ!!」」」」」
 良い返事だ。
 それぞれ颯爽と散って行った。

 「あーあ…当分、お母さんの手料理食べらんねーのかな…」
 誰かが残した呟きに、俺も激しく同意だ。
 ともあれクンちゃん、君はどう動くのだろう。
 予測不可能な昴よりも、俺は君の動向が気になる。
 言い掛かりそのもののつまらん記事に、君は何か反応するのだろうか。
 …一先ず俺の優先事項として、怒り狂った勢いで昴の隊であれ富田であれ、壊滅させそうな凌を抑えねばなるまいな。



 2014.5.2(fri)23:52筆


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