58.音成大介の走れ!毎日!(12)


 朝練前だった。
 いつもの恒例、ジョグと言う名の、俺の貴重な親衛隊員且つ情報網ちゃんと朝ミーティング後、その足でバスケ部へ向かうつもりだった。
 「音成様、どうぞ」
 「あー、いつも悪ぃな。サンキュ!」
 気が利くスポーツドリンクの差し入れを受け取ろうとして。
 「音成様…」

 目線で促されて、後ろを振り返ったら合原が居た。
 心なしか青い顔して、でも何かを決意した様に唇を引き結んで、俺達に一礼を寄越してきた。
 自然に庇う様に前に立たれて、動向を問われた。
 「どうなさいますか。同席致しましょうか」
 「いや、大丈夫だろ。何かあったら連絡するから。今日もご苦労さん。明日も頼むわ」
 不審な表情を浮かべつつ素直に引き下がる、俺の親衛隊は良いヤツ揃いだ。

 合原と2人になり、対面する。
 こんな朝っぱらから何の用なんだ?
 近付く学園祭、この時期の生徒会は毎日朝から起動してる、各委員会を交えてのミーティングも頻繁にある。
 フル稼働してる柾会長を出待ちしなくて良いのかよ。
 合原が俺に何の興味もない事は知ってるけど、こんな所、誰かに見られたらとんでもねーな。

 って事は、それだけ切羽詰まった話があるって事か?
 常に勝ち気な合原が、硬い雰囲気を醸し出してる、一体どうしたってんだ。
 「…おはようございます、音成様。朝早くから申し訳ありません」
 「おはよう。構わねーけど、どうした?俺に会いに来るとか珍しいよな…何か余程の事態が起こったって事?」
 合原はふと、息を詰めて静止して、視線を花壇に向け、何かを堪える様に腹の前で指を組んだ。

 爪が白くなる程、固く力を込めている手を見て、震えているのに気づいた。
 「…察しが早い音成様ですから、手短にお話させていただきます…時間もありません。親衛隊号外が直にバラ撒かれます。それも柾様親衛隊からです。内容は、前陽大が柾様に岡惚れしており、且つ生徒会長の座を虎視眈々と狙い、学園を手中に治めようとしていると」
 「は…あ?!何だ、それっ…」
 想わずデカい声が出て、口元を覆った。

 「どうか、お気を鎮めて…柾様親衛隊から出る、つまり隊の総意という事です。今回は富田隊長の意図ではなく。意味、おわかりですよね?前陽大をよく知らない柾様シンパは、体育祭後のフラストレーションもあって、彼を潰そうとしています」
 「富田先輩も止めらんなかったのか…おい、合原、もう発行済みなのかよ?」
 「はい。今にも学園中にバラ撒く手配が整っています。時間の問題です」
 舌打ちしそうになって、どうにか留める。

 まさかそこから突つかれるなんて、富田先輩の手腕に安心して盲点だった。
 すべてはどうにか順調に進んでると。
 「参ったな…つーか合原、こんな所に居る場合じゃねーだろ。情報貰えんのはありがてーけど、お前は取り敢えずまだ1年だし、表向きはヤツらに従っておかねーとヤバいんじゃねーの」
 どこも縦社会、面倒くせーよなぁ。
 うんざりと言ったら、合原が悲愴な瞳になって微笑ったから、目を見張った。

 「お前、まさか、」
 「僕は友達を裏切りません。大事な、初めてできた友達だから。1度卑怯な真似をしておいて何だけど、もう2度と裏切らないって決めたんです。隊にもそう言いました」
 「合原…」
 マジかよ。
 柾会長命のお前が、学園の安全圏で生きて行く道を自ら手放すのか。
 しかも1番デカくて1番力のある隊を、だ。

 「音成様にお伝えしたのは、音成様も前陽大と仲が良いから。これから表立ってはるとに関わる事は、お立場上難しくなるでしょうけど、音成様もバスケ部の皆様もはるとの敵には回らないですよね?あの子を陰からで良いから、支えてやって欲しいんです。お願いします」
 一瞬、言葉が出なくて。
 勢い良く頭を下げる合原に、俺が何を言えるのか。
 あまりの事に、情けねーけどまっ白になって、慌てて合原の腕を取った。

 「んなの、言われるまでもねーよ。旭先輩自体がはると気に入ってるし。いや、そうじゃねーな、悪ぃ、混乱してるわ俺…バスケ部どうのじゃなく、俺自身がはるとの敵に回るとか有り得無いから。俺は俺で対策考えるから、合原、俺に頭なんか下げんなよ。大丈夫だ、祭りが始まったらそんな噂、すぐ吹き飛ぶだろ」
 「はい…ありがとうございます」
 朝からすみませんでしたとまた1礼して、合原は去って行った。

 ちいさな背中を見送り、俺は反対方向のバスケ部へ走って向かった。
 ジョグで温まった筈の身体が、急激に冷えていく。
 うっすら秋が近づいている、肌に触れる風が妙に冷たく感じた。
 俺は、どう動くのがベストなのか。
 親衛隊を持つ身として、バスケ部の一員として、ご主人様の下僕として。
 厄介だらけの肩書きに、すべて捨ててはるとの友達として存在すると宣言した合原を、どこか羨ましく想った。


 
 2014.5.1(thu)23:47筆


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