55.綻び


 朝起きて、朝の習慣を楽しんだら、お弁当の仕度をして朝ごはん。
 身支度を整えたら、まっすぐ生徒会室へ向かう。
 居座り続けていた残暑が終わろうとしている、学園祭が近づいている。
 新米補佐の俺にできることなど知れているけれど、何かと散乱しがちな生徒会室を整えて掃除して、皆さんが少しでも快適にお仕事できるように努めることはできる。
 各委員会さんや先生方への細々としたお使いもあるし。 

 学園祭と通常業務と、その先の行事を見据えて誰より働いておられる、柾先輩をフォローしなければならないし。
 などと言い訳になってしまうだろうか。
 でも好きな人の、ほんの僅かでもお役に立てたらいいなぁって想う。
 頑張っているお姿を近くで拝見しながら、自分にできることは何かって考える。
 その時間は、愛おしくもあり苦しくもあり、大事で、哀しい。

 俺にできることなんて、ほんとうに限られているし、支えには到底なれないから。
 それでも一生懸命、動くしかない。
 言われたことにしっかり耳を傾けて、足手まといにならないようにミスしないように、誠心誠意、頑張る。
 せめて嫌がられないように、邪魔だと想われないように。
 やっぱり俺を入れなければよかったと、先輩が後悔しないように。
 
 忙しくて食事もままならない、皆さんのためにおいしくて栄養のあるものを作る。
 疲れが取れるように、お茶時間を工夫する。
 俺は授業にも出席し、放課後も早目に帰らせていただいている身だから、頑張れるだけ頑張らなくちゃ。
 こうして近くで見ていられるのは、幸せなことなんだ。
 疲れを微塵にも見せず、淡々とお仕事なさる姿には、敬意と同時に胸も痛むけれど。

 他の皆さんは勿論、風紀委員会さんや武士道、各委員会さん、諸先輩方、誰もがたくさんのお仕事に追われて大変だけれど。
 先輩の仕事量は抜きん出ている。
 近くにいると、事態をよく知らない俺でもわかるぐらいの量だ。
 この人がここまで頑張らなくちゃならないのだろうか。
 そうしないと学校の運営は止まってしまうのだろうか。
 事の大きさ、責任の重さは俺などが安易に計っていいものではないけれど。

 毎日ちゃんと眠っているんだろうか。
 俺が見ていないところでは、食べていないのではないだろうか。
 表向きも裏向きも関係なく、山のような仕事をテキパキ捌かれていく、その姿は凛々しくて尊敬の一言だけれど、弱音を決して吐かないことに勝手に傷ついたりもした。
 柾先輩にはちゃあんと帰るところがあるのだから、1後輩の俺に本音を見せないことなど当たり前なのに。
 
 もっと頼って欲しいなんて、俺の欲は次から次へと際限なく、気持ちは変わらないどころか膨らみ続けるばかりのようで。
 忙しいから騙し騙しきているけれど、冬休みを迎える頃には普通に「憧れの先輩」に変わっていないものだろうか。
 取り敢えず、頼って欲しいならもっとしっかりしなくてはね。
 自分の気持ちに振り回されていないで、周りを1番に動いている先輩を見習って、デキる男にならねば。

 日々、ぐるぐると考えながら、学校生活に追われていた。
 すごく充実していた。
 勉強と生徒会活動と、体育祭の時のように高まるお祭りモード、クラスでの学園祭の出し物の準備、武士道や凌先輩、心春さんや穂さんととたまにごはん会したりして、かつてなく充実していた。
 ある意味、平和だった。
 
 このままバタバタと学園祭に突入して、次の行事が重なって、期末試験がわーっと襲いかかってきたら、すぐ冬休み突入なんだろうなぁって。
 「前君、ちょっと良いかな?」
 富田先輩が急に部屋を訪れるまで、そんな未来を信じきっていた。
 


 2014.4.28(mon)23:59筆


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