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 固まったままの俺に、先輩はほんとうに眠そうに目を細めて、前髪をかき上げていらっしゃる。
 寝起き???
 何でまた、今起きたばかりっていうお姿なんだろう???
 人一倍、警戒心の強い御方だ、一応制服姿だけれども、いくら早朝だからってこんな隙だらけの状態で来られるなんて。
 不安と不信感と心配とモヤモヤするまま、きっとすごい眉間にシワ寄ってると想う。

 「んなビビんなくてもいーじゃん。つーか超渋い顔!」
 少し掠れた声で笑いながらも、気怠そうにお腹辺りをかいていらっしゃる。
 隙だらけにも程がある。
 今の柾先輩なら、俺にだって倒せそうですよ。
 武道で言うところの「1本!」どころか4、5本取れそうですよ。
 とか考えていないと、羞恥でどうにかなってしまう。

 シャツのボタン外しすぎだし、袖もまくりすぎだし、ツッコミどころ満載のその起き抜けファッション、どうにかなりませんか。
 目のやりどころがございません。
 チラっと腹筋が見えてしまったの、俺の所為じゃありませんからね!
 俺は極力、平静を保つべく常日頃から努力してますもの。
 はっ、「男前同盟」としてはもっとしっかり、腹筋具合を観察しなければならないのだろうか。

 いやもう、同盟員失格で結構でございます。
 どなたか早く来てくださらないものですか。
 目の毒!
 じゃないな、先輩にとって俺の存在こそ毒!
 渋面のまま、お身体方面を見ないように、でも視線を合わせ続けるのも危険故、先輩の眉間辺りをぼんやりと見つめていたら。
 「腹へったあ〜ふあー…でも眠ぃ〜…」

 あら、お忙しいこと。
 一際大きく伸びをしたかと想うと、「シャワー浴びて来る」とおもむろに踵を返されて目が点になった。
 「シャワー???って先輩、まさかそのスタイルで寮へお戻りに?!」
 部活の朝練習が始まり出した時間、生徒さんの出入りがあるというのに!
 それだけは止めねばと構えたのに、欠伸で潤んだ眼差しを向けられた。
 「だいじょーぶ、だいじょーぶ。つか陽大、メシあるなら用意しといて。マジ腹減ってやべぇわ。仮眠室行って来るだけだから、すぐ戻る」

 余計に?マークが増えた俺をそのままに、怠そうな足取りで奥の資料室へ向かったと想ったら、その隣の扉に手をかけて去って行った。
 あんな所に扉、あったっけ?
 生徒会7不思議?
 首を傾げてから、我に返って慌ててお掃除再開!
 ちゃっちゃと終わらせて、朝ごはん用意して、自分の仕事に取りかからねば。
 
 掃除機をかけて、お味噌汁を温めたところで、タイミングよく奥の扉が開いた。
 つい15分前と大違い、こざっぱりとしたいつもの柾先輩がいらっしゃった。
 まだ8分乾きの髪が、いつより落ち着いた印象だけれども。
 「マジ無理、限界、ペコったーーー。お、今日も美味そう。いただきまーす」
 すっかり起きた顔で、デスクに並べた朝ごはん弁当にまっしぐら。
 俺のすぐ隣を通り抜けていく、湯上がりのいい香りが鼻をくすぐった。

 この気持ちさえなければ、何てことのない瞬間なのに。
 だけど、この気持ちがあるからこそ、一瞬が愛おしくて嬉しくて。
 モヤモヤ感は半端ないけれど。
 果たしてどちらがよかったのだろうか。
 とっくに通りすぎた後だというのに、先輩を避けるように1歩後ずさりし、黙々と平らげていく様子をちょっと見て、すぐ自分のデスクへ向かった。

 このところお忙しくて、朝ごはんをちゃんと食べる間もないと、物欲しそうに言われてしまった。
 皆さんの目がないところ、お留守の時に内緒でコーヒーを入れていただく約束と引き換えに、朝お弁当を差し入れることになった。
 ほんとうはお弁当ぐらい、俺の作るものでいいなら、いくらでも差し入れる。
 言われなくたって気にしていたことだもの、一際忙しい先輩の食生活、どうなっているんだろうって勝手に心配してた。

 でも、フェアでいたほうがいいのかと想って、コーヒーを引き合いに出した。
 外に大切な方がいらっしゃるのに、俺が差し出がましく世話を焼くような真似なんて、よくない気がしたから。
 今日もいい食べっぷりですねぇ。
 朝のメールチェックをしながら、早く皆さん来ないかなあって待ち遠しく想った。
 おっとっと、おかずがもう1タッパーあったんだった。



 2014.4.22(tue)23:02筆


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