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 ぱりっとアイロンかけたてのシャツって、気持ちいいねぇ。
 同じくぱりっとしたハンカチとネクタイも身に着けて、何だか爽快だ。
 しっかり電気の消し忘れと戸締まりを確認して、いい加減、部屋作りにも本腰入れなくちゃなぁと想いながら、殺風景な我が家を後にした。
 特別寮さんのオートロックて、音が軽快な気がするなぁ。
 軽く鼻歌混じりでエレベーターに乗り、エントランスへ下りた。

 あちらの寮よりも荘厳な、一流ホテルそのもののエントランスには、まさにコンシェルジュという称号が相応しい管理人さま方が、24時間態勢で常駐なさっておられる。
 凛々しく黒服を着こなしておられる管理人さま方に、お辞儀をして、朝のあいさつと共に二言三言交わして外へ出た。
 皆さま、あちらの寮と何ら遜色なく、親切な方ばかりで嬉しいなぁ。
 何とびっくり、名前と顔をすぐ覚えてくださって、温かい声をかけてくださる。
 
 「今日はお天気が良いですね」「お疲れさまです」「花壇が満開ですよ」とか、何気ない言葉のかけ合い、実は毎日のちょっとした楽しみなんだよねぇ。
 特に嬉しいのは、「いってらっしゃいませ、前様」「おかえりなさいませ、前様」って言っていただけること。
 十八学園さんで働いていらっしゃるスタッフさん方って、ほんとうプロの中のプロ!っていう方々ばかりで、いつも笑顔を絶やさずお仕事なさっておられて、すごいなぁって想う。

 格好いい大人の男性ばかりで、憧れるなぁ(特に食堂方面の引力は相変わらずすごいですとも!)。
 なんたって、十八さんと知り合ってから手土産を購入したり、食事しに何度か訪れたことがある、世界に名立たるホテルの最高峰「HOTEL KAIDO」に似通った雰囲気っていうのがものすごい。
 そう言えば今度、凌先輩がショッピングモールでイチ押しのレストランに連れてってくださるって約束してくださったっけ。
 すっごおおおく楽しみだな。
 
 俺も働き始めたら、皆さんのようにきりっと格好いい、大人の男になるんだ!
 とりとめなくいつもの空想にふけりながら、生徒会室とうちゃーく、今日も1番乗り!
 今朝は朝1でミーティングがありますからねぇ。
 皆さんが集る前に、空気の入れ替えとお掃除と、お茶の準備を済ませておきましょうねぇ。
 まったくやんちゃ坊主な男の子ばかり集ったら、武士道だろうが生徒会だろうが下界だろうが変わりないこと!
 
 ゲームじゃ服じゃお菓子のゴミじゃ勉強道具じゃと、散らかし放題じゃありませんか!
 片づける前に、ポイントごとに写メを撮らせていただいた。
 きちんと証拠を押さえた上でお説教しませんとね、まったく効き目ありませんから。
 きりっと前掛けつきのエプロンをして、窓を開け放ち、片づけ片づけ。
 棚上のホコリを払って、各デスクを拭いて、柾先輩のデスクの前で想わず足を止めてしまった。

 意外なことに、1番散らかし魔っぽい柾先輩のデスクが、いつも1番キレイに片づいていることを俺は知っている。
 デスクの上には、お仕事関連のものはデスクトップとノートのパソコン2種と電話しか置いていない。
 筆記用具含め、すべてきちんと引き出しや書類ケースの中に収めていらっしゃるのだ。
 どんなに忙しくても、帰る時には全部片づけてしまう。
 ふん、どこまでもデキる男ですねぇ。
 
 ふと、大きなデスクトップの右端に、無造作にテープで張りつけられた、幼い子供が書いたらしき絵のキレはしに目がいった。
 『こうちやん、がんばつてね!』
 ちいさな子供らしくクレヨンで描かれた人と人、どうやら手を繋いだ子供と柾先輩だろうか、ニコニコ笑顔と一生懸命さがうかがえる拙い字。
 たくさんの色が使われた絵に、胸がほわほわと温かくなった。

 年の離れた弟さん?
 もしくは甥っ子さんとか?
 明るい心持ちで丁寧にデスクを拭いて、はっと想い至った。
 まさか、柾先輩のお子さんからだったりして…
 唐突に浮かんだことに、そんなバカなと自分でおかしくなってすぐ、真顔になった。
 先輩なら、おかしくない。

 有り得なくない。
 だって、婚約者さまがいらっしゃるんだもの。
 例えば相手の女性、「れな」さんが年上の方で、まだ結婚年齢に達していない先輩を待つ為に婚約中なのかも知れない。
 未成年同士ながらお子さんが生まれたとか、それでも不思議な程、違和感がない。

 十八学園の皆さまに、あらかじめ決められた許嫁さんがいらっしゃったり、在学中に婚約なさったりすること、珍しくないらしい。
 あれだけしっかりなさっておられる柾先輩なら、既にお子さんの1人や2人、いてもおかしくない。
 お可愛らしいカラフルな絵が、目に突き刺さるように視界に入った。
 急に寒気を感じて、絵を避けるように開け放したままの窓へ視線を移した。

 早く掃除機かけてしまおう。
 ぼうっとしている場合じゃない、直に皆さんも来られる。
 ほんとうかどうかもわからない俺の空想、しかも些細なことにいちいち、心を留めて落ち込んだり元気になっている場合じゃない。
 いつでも平静でいなくては、ね。
 ふうっと息を吐いて、くるりと振り返って。

 「ひわあっ!!」
 驚きに後ずさった途端、ガタガタと柾先輩の椅子に当たって、大きな音を立ててしまったではありませんか。
 「ふあー……はよ、陽大。今日も早ぇな〜…」
 「なんっ、な、なななっ!!」
 と言うかですね、と言うかですよ?!
 どちらから現れなすった?!

 いくら俺がぼうっとしていたからって、足音や扉が開く音で絶対気づきますけれども!
 いつの間にかそこに立っていて、眠そうに欠伸している柾先輩を凝視!



 2014.4.21(mon)22:39筆


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