6.腹ごしらえして出発!
昨夜よりもずいぶん会話しながら、朝ごはん終了!
ちゃっちゃと片付けてたら、もう時計は8時半前を差していた。
急げ〜!
部屋へ戻ろうとした俺の袖を、美山さんの指がつんと引っ張った。
「?どうかしましたか?」
「……一緒……」
「???いっしょ…?」
「………連れてってやる。こっからの道、わかんねぇだろ」
素っ気なく指を放し、ぷいっとそっぽを向く美山さん。
もしかして、もしかしなくても照れておられるのだろうか、なにやら頬が赤い…?
「ありがとうございます!助かります〜学校内の地図を拝見したものの、今イチわからなかったんで…すぐ仕度して来ますね!」
「…あぁ」
美山さんって、無口だけど、親切でよく気がつく御方だなぁ…
美山さんと同じ部屋でよかったなぁ…
想わず頬が緩みながら、部屋へ駆けこんだ。
えーと…あらかじめ用意しておいた、筆記用具とメモ帳入りの指定鞄に、充電済みの携帯電話も入れて、と。
ハンカチ、ポケットティッシュはブレザーのポケットに…うん、入ってるな!
春とは言え、冷えるかも知れないから、ベスト着ていこう。
問題は、ネクタイだ。
「う〜ん…えーと、こう…?いや、それは対面した時だから、逆に考えたらいいわけで…うう〜ん???」
クローゼットの扉の裏についている鏡を見つつ、四苦八苦。
そこへ、控え目なノックの音。
「前…?何してる」
おお!
美山さんから名字呼ばれたの、初めてだ。
ちょっと感動しつつ、俺は扉を開けた。
「美山さ〜ん…ネクタイが〜…」
「あ?」
「俺、中学は学ランでしたし、人のは結べるんですけれど、自分のはどうも苦手で〜…」
情けない声を出す俺に、美山さんはちょっと目を見張ってから、「出て来い」って一言。
おお?!
美山さんはもう用意万端だ。
「美山さん、この学校のブレザー、よく似合いますねぇ…!想ってた以上だ〜」
やっぱり男前にはピッタリ似合う!
なんだか凛としたオーラと言うか、品格が溢れていると言うか。
「……てめぇは……七五三みてー…」
「そんなの、俺が1番よくわかってますって〜!まーまー、見ていてください!俺だって成長期ですからね!この1年でメキメキ成長して、美山さんぐらいニョキニョキ〜っと伸びちゃいますから」
「へえー……いーから、ソレ寄越せ」
「へっ?」
伸びて来た手が、俺からやんわりとネクタイを取って。
すこし膝を屈めた美山さんが、手早くネクタイを締めてくれた。
「…こんなもんだろ…」
「ありがとうございます、助かりました!これからもっと練習して、美山さんにお世話かけないように気をつけますね」
「…別に、いーけど。つか、誰だよ…?」
「え?」
「てめぇのは結べねーけど、人のは結べんだろ…誰だよ?」
「あ、ああ…家族ですよ。家族のネクタイなら結べるんですけどねぇ…どうも自分となると、勝手がよくわからなくなってしまって…」
家族。
「家族」だもの、十八さんは…
そう言えば十八さん、今朝は自分でネクタイ締めたのかなぁ?
心配だなぁ。
母さんは結構、放置主義だし。
「……ふん…行くぞ」
「えっ、あ、はい!行きましょう」
おっとっと!
急がないと!
きっとこの広大な学校敷地内から察するに、クラス発表がある掲示板から教室まで、結構な距離があるに違いない。
玄関先でローファーを履きながら、先に出られた美山さんの背中へ声をかけた。
「美山さん、いってらっしゃい!」
「……あ?」
怪訝な顔をして振り返る美山さんに、にっこり。
「俺も、いってきまーす!」
誰もいない部屋へ向けて挨拶してから、鞄を持つ手に力を込め、歩き始めた。
2010-05-14 08:11筆[ 58/761 ][*prev] [next#]
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