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 「しの…いや、渡久山はどこで勘付いた?」
 ずしりと重みを増した空気を一新する様に、想わず目を見張るボリュームと色鮮やかな盛り付けが施されたメインがやってきた。
 魚と肉料理それぞれ一皿ずつ、それをウエーターの手を借りてきれいにシェアし、一先ず集中して味わった。
 この人と料理のシェアだなんて、昔は有り得なかったな。
 自分の好きなものを自分の好きなだけ、我が儘で無邪気な王様だったから。

 でもいっそ清々しい程、自分勝手な所が良かっただなんて、今でも当時を嫌だと想っていない、これが若気の至りというものなのか。
 ひとりで可笑しく想っていると、呼び方を間違えて話を切り出された。
 ちょっとした打撃だったけれど、何も気付いていないふりで微笑って受け流した。
 俺とこの人の話は、もう終わっている。
 既にすぐ近くへ迫る未来へ向かって、真摯に歩いている人を引き止めてまで、想い出に浸る余白はお互い微塵もない。

 今は、可愛い後輩の話こそ最優先だ。

 「そうですね…陽大君は誰にでも分け隔てなく優しくて、彼自身すごく穏やかだし、周りを包み込む様な朗らかさで人と接する子ですが、昴に対しては何故か違うんですよね」
 一学期の頃から何となく感じていた。
 陽大君自身が小柄で華奢だから、ルックスやスタイル、性質すべて含めて、男らしさにすごく憧れがあると聞いてはいた。
 だからか、とりわけ学園の誰より雄々しい昴にコンプレックスを抱いている様で、それを知ってか知らずか、昴は陽大君を面白がってちょっかい出して。

 一見まるで相容れない2人、だけど料理方面や漫画?だとか話が合う共通項もあり、よく掛け合いの様な会話をしていた。
 昴は俺の知る限りの素に近い姿で、陽大君は他の誰にも見せない接し方で、何だか不思議な関係性だと想っていた。
 決定打は体育祭後、だ。
 恋人の真似事の様な、悪ふざけの度を超えた競技を終え、祭りが終わってからずっと、陽大君は何か考え込んでいる様だった。

 表向きは元気を装っていたけれど、夏休みに会った時も、悩みを抱えている気配が消えなかった。
 体育祭から期末試験まで慌ただしかった事もあるし、本人が楽しそうに笑っているから踏み込めなくて、何事か打ち明けてくれるまで見守ろうと、そっとしておいた。
 静観に徹していたからこそ、見えてしまったものがある。
 一生懸命に生徒会業務をこなす、陽大君の視線の先には、いつも昴が居る。
 変わらずあちこちから好かれ、注目度が高い中、明るい笑顔を絶やさない、陽大君の表情が唯一ぎこちなくなる人。

 嫌いで苦手だからじゃない。
 どうしたら良いのか困っている。
 自分の気持ちを持て余している、相手が現職の生徒会長で、学園中でどこより巨大な親衛隊を抱えている事も、何となく引け目を感じる所以だろう。
 誰にも知られる訳にはいかない、どうしようもない、諦めた気持ち。
 それを押し隠す故の、困った笑顔を浮かべている。
 注意深く見つめていないと、誰も気づかない程度の、かすかな表情だ。

 「今は良いですが…いずれ誰かに気づかれると厄介です。ただえさえ、反感を買いながら補佐になっていますし…体育祭の障害物2人3脚だって、未だに一部の生徒からは顰蹙を買っている。昴の親衛隊長は非常に良く隊を律しておられますが、親衛隊に入っている生徒だけが好意を抱いている訳じゃありませんし」
 「そうだな…俺らとて、ネットだの人の感情だのまで規制出来ねーしな」
 「ネットは本当に厄介ですね…1人歩きした噂が勝手に真実にされてしまう」
 ため息が視認できたなら、このテーブル周りは相当なため息で曇っているだろう。

 そんな事を考えて、気を取り直した。
 「いずれにせよ俺は、陽大君の友人として、風紀副委員として、彼の安全と平和を可能な限り守りますよ。何を考えてるか知れない昴より、もっと良い想い人を見つけて欲しいものですが、暫く見守ります」
 「あぁ…そうだな。けど渡久山、友達なら踏み込んでも良いんじゃね。前の事だから、誰にも話せず余計辛いんじゃねーのか。悩み相談だの成就云々置いて、とにかく聞いてくれる奴が居れば大分気楽だろ」

 目から鱗だった。
 それも、この人の口からこんな助言を聞けるなんて。
 「わかりました…善処します」
 「なるべく早い方が良いと想う。学祭入ると話すタイミングも無ぇだろ。そのまま年越しになるのは勿論、話す前に何かあってからじゃ遅い」
 「そうですね…なるべくすぐに切り出してみます」
 いつの間にこんなにクリアな視点を手に入れたのだろう。
 
 驚きや敬服やいろんな感情がない交ぜになった中、ふと気になった。
 「宮成先輩はいつ、陽大君の想いに気づかれたんですか」
 「あ?あぁ…」
 ミネラルウォーターのグラスに視線を注ぎ、それからこちらを見返して、不敵に笑った顔は、少し前の悪ガキ然としていた。
 ほんの少しだけ、胸の奥がざわついた。

 「目、だよ」
 「目?」
 「あぁ。前が柾を見る目が特別だった。それだけだ」
 デザートで終わりだなと、ドリンクのメニューを差し出された。
 受け取りながら、俺は今は、陽大君にどう話を切り出すべきか、それだけを考えようと想った。



 2014.4.3(thu)23:48筆


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