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 「ゲンキンな奴め」
 頬を拳でぐりぐりされながら、花より団子な俺は「甘んじてお受けいたします!おいしいものの為なら!」と期待の目を向けた。
 「ふはっ、わかり易いのなー」
 わかり易かったらよかったのかな、寧ろ。
 花より団子、俺の夢は変わらない、だけどほんとうは、花だって大事で。
 あんまり触れないで欲しい警戒心と、気安く接してくださってる安心感と、いろいろな気持ちで引き裂かれそうだ。

 「秋鮭とーウニとー蟹とーじゃがいも、とうもろこし、玉ねぎ、かぼちゃ。チーズに生クリーム、バター、菓子類も適当に見繕って、陽大宛てに送ってるから。後で寮に届くんじゃね。武士道辺りと楽しめる量で抑えてるし、保管難しかったらショッピングセンターに話通しとくから、そっちで保管して貰いな。十八さんチには別で手配してるから、気兼ねなく召し上がれー」
 「な…!!」
 想いもかけないごちこうお土産ラインナップに、一瞬言葉を失った。

 「今夜は北海道鍋パーティー!!」
 武士道と囲む、アツアツお鍋がありありと想像できた。
 いや待てよ、お鍋はお鍋でもカレー鍋、もしくは鉄板焼き、ううんシチューやポトフも捨て難いし、魚介とお野菜たっぷりパスタもいい。
 北海道全部のっけで!!
 それよりも何よりも、両手を握り合わせて目の前の神さまを拝むのが優先だ!

 「ありがたや、ありがたや」
 「ぶっ、何だそりゃ。俺は神か」
 「もちろん、神さまでございます。ありがたや、ありがたや…お陰さまでこれでお腹を空かせた図体の大きな子供たちも大満足、俺も料理を楽しめて、世界は笑顔いっぱいになります。誠にありがとうございます、柾大先輩さま。どうか神さまとマロンさまにも幸あれ」
 「そりゃどうも。喜んでいただけたなら何よりでございます。こちらこそ可愛い後輩の食い物命!な目ん玉キラキラを拝めて、久しぶりに面白いっつか大満足です」

 面白いと感じていただけたなら、何よりでございます。
 俺の存在意義が活かされているのであれば。
 「それにしても勿体ないご馳走の数々、いただいてばかりで申し訳ございません。何かお力になれることはございますか」
 「とんでもないことでございます。陽大様には日頃言葉に尽くせない程、お世話になっておりますから?ウチのやんちゃ共の世話任せてるしな。気にすんな。強いて言うなら次の弁当、ちょっとだけ北海道にして」
 
 屈託なく笑う先輩にお易い御用ですと頷きながら、武士道との北海道パーティーに先輩も参加していただけたらいいのに、と想った。
 仁と一成だけならまだしも、それはちょっと難しいことで、そもそも先輩はお忙しいから端から無理だろうけれど。
 「あ。そうそう」
 むむ?
 話は終わりとキッチンから出て行きかけた先輩が、ポケットを探った。

 「陽大、手ぇ」
 「手???」
 「ん。いーから開いて」
 何だ何だと、怪訝に想いながらも、おずおずと手の平を差し出した。
 その上に、先輩の握られた手が、触れるか触れないかで翳される。
 温かい手の気配、触れていないのにわかって、頬がまた熱を持つ。
 そこへ、コロンと転がされた。

 「やる」
 ひんやりした感触に、何かと目を向けようとして、でも「見つかったらうるせえから仕舞っとけ」って言われて、慌ててその何かを握り締めた。
 「陽大、よく頑張ってくれてるし。俺の留守も守ってくれたからな。その礼代わり」
 「え…でも、俺は食べもののお土産までいただこうとしておりますのに」
 「いーからいーから。見た瞬間、陽大が想い浮かんだんだよ。黙って受け取れ」

 沸いたっきり放置していたお湯を、用意していたティーポットに手早く注ぎ入れ、慣れた手付きでトレイを持ち上げて。
 「コレ、先に持ってくな」
 「え、あ…はい」
 もう背中を向けて去って行く姿を見送って、しばらくぼうっとしてから我に返り、次のお湯を沸かすべく動いた。 
 一息吐いて、今更また赤くなる頬を摘んだ。

 握りしめたまんまの手、やっと開いたのはお湯が沸く前。
 そこには、ガラス細工のシロクマのストラップがあった。
 のんびりしたゆるーい雰囲気の、ほのぼのしたシロクマの顔に、想わず笑みが零れて、すぐに何だか哀しくなった。
 どうしてこれをくださったのか。
 先輩にとって何てことのない、他の方々にもたくさんお土産を配っている一部だろうけれど、俺にとっては特別な意味になってしまう。

 久しぶりに賑やかな部屋の中、キッチンの片隅でただ手を握り締めていた。



 2014.3.30(sun)23:24筆


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