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ため息を深呼吸に変えて、とにかく落ち着こうとした。
大丈夫、大丈夫、俺は大丈夫。
お洒落ケトルの注ぎ口から蒸気が上がってくる様子を眺める内、心がすこしずつ凪いでいくのがわかった。
お茶うけは、たくさん買ってきてくださったお土産をいただいていいだろうか。
食べもののおいしい国、北海道からのお届けものですものね!
お土産をよりよく楽しめるように、日本茶と紅茶とコーヒーを用意しようかな。
柾先輩と日景館先輩が不在だった時間を埋めるように、わいわい盛り上がって笑っておられる皆さん、楽しそうな声がここまで聞こえる。
とりわけ寂しん坊なひーちゃんたちが元気を取り戻せてよかったなぁと、自然と笑みが浮かんだ。
カップや茶葉の用意を進めながら、ほっと一息吐いた。
しっかりしなくちゃね。
皆さんのお話に水を差さないように、お仕事の話は明日以降のほうがいいのかな。
引き継ぎや確認事項が溜まっている、でも我が身のためにも明日以降にお話させていただきたいな。
何とか平静を保てそうだけれど、間近でお話するとなると、まだ心の準備が…
「陽大」
「ぬわっ」
だから心の準備ができてないって言ってるじゃないですか!!
もう暫くゆっくりお茶の用意で引きこもっていようって、わざとノロノロしていたのにどうして張本人が水を差すのです?!
「くくく…ぬわって、お前な…」
流石に持病の発作は抑えるご様子ながら、なんなんでしょうか。
旅立つ前より、更にキラキラ増し?
キラキラ100倍増量キャンペーン中???
今日は前髪の分け方がラフで、ほんのり斜め横流し、人は前髪でこれ程に印象が変わるものなのだろうか、男前はとにかく些少な変化でいろいろな表情を見せるというか、ただ今イケメン度数右肩上がり?
「っとっとっと、ちょーーーっとお待ちくださいませ!何でございましょうか?!お茶でしたら俺1人で準備できます。直にお持ちしますから、旅行からお戻りになられたばかりの柾先輩はどうぞ!どうぞあちらで、可愛いお子さまたちがお待ちですよ!宮成先輩方の接待もお願い申し上げます、あしからず」
ぼうっと、あまりのキラキラ度に目を瞬かせていたら、俺の聖域でありテリトリーでもあるキッチンへずんずん侵入されて、慌てて後退しながら、片手を身体の前に突き出して制止したら。
面白そうに、その手をぎゅっと握られた。
何てことをなさるんですか。
何てひどい暴挙でしょうか。
この俺に対して、先輩は何も知らないとは言え、何と恐ろしく無謀でご自身の安全を度外視した行為!
ただの1後輩と甘く見過ぎるにも程があります。
と言いますか、熱が出てぶっ倒れそうでございます。
「おおお、」
「おお?」
「おおお戯れはお止めくださいませ!遊ぶ相手を間違えてお出でです。あの子たちがどれだけお帰りを心待ちにしていたか、どんなにシュンとしていたことか!先輩と遊べなくなって4人共、それはそれは落ちこんでおられたのですよ?カラ元気で精一杯、虚勢を張ってお出ででしたけれども、先輩のデスクとパソコンに旅立ち前の号外を貼って、毎日眺め暮らしてはため息ばかり…ですから、」
どうにか手を引っ込ませ、懸命にあちらへお戻りくださいと訴えたのに。
「陽大は?」
「は、い?」
「陽大は俺が居なくなって寂しかった?」
「………何故、ここで俺の話になるのでしょうか」
「あいつらが寂しがってんのなんか、手に取る様にわかるっつの。後で十分甘やかすからいーだろ。それより、陽大は?」
俺、俺は。
今すぐ泣けるぐらい寂しくて、先輩に少しでも会えないこと、顔すら見れないことが哀しくて、そして。
あなたのことが好きで、ほんとう、自分でびっくりして呆れるぐらいに気持ちが消えなくて、増えていくばっかりで。
どうしたらいいのかわからない。
だってこの気持ちは欠片も打ち明けてはならない、先輩の大迷惑になるだけなのに。
ふざけて面白おかしく回答するのが正解だって、知っていてもできな「返答次第ではいろいろ内容変わるぜ?だってさー行き先北海道じゃん。ちょーっと肌寒い頃合いの北国でさーあんなこんな…なんつーか、美味いものしかない!みたいな?海から畑からいやー豊作豊作」い?!
まさか、北海道はでっかいどう?!
そういうお話ですね?!
そういうことなんですね!!
「はいっ!すっごおく寂しかったです!」
想わず敬礼して直立したら、柾先輩は吹き出すのをどうにか堪えて、目をすがめて楽しそうに笑った。
2014,3,27(thu)23:40筆[ 573/761 ][*prev] [next#]
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