38.音成大介の走れ!毎日!(11)


 歓声、怒号、鋭い笛の音が空気を切り裂いて、拍手、声援、コートを打つボールとシューズが走り回る音、とにかく一瞬も止まらない。
 今日もバスケ部は目まぐるしく走り続けている。
 親衛隊に差し入れられたタオルを首に、噴き出す汗を押さえながら、学年VSの部内練習試合を観戦中、隣にはさっきまで競り合ってた、まだ湯気を立ちのぼらせてる旭先輩が、何故か居る。
 何でだ。

 「おら、1年!!走れ走れー!」
 一際響く旭先輩の大声に、コート内どころか待機選手、見学生徒まで全員、年の上下関係なくびくっとなって、それぞれ気を引き締め直してる。
 隣に居る俺なんか、直立不動。
 この人、マジ王様気質っつか、トップに立つ天性っつか。
 場が引き締まる、居るだけで、それが声を発して指令を出すとなると、もうその通りに動かざるを得なくなる。

 中等部、いや初等部からもうずっとだ。
 何で生徒会に入んないんだって、ずっと想ってる。
 柾会長と親友だっつーなら、2人で学園仕切ったらいーんじゃね。
 その方があのお子ちゃま1年生組(いや、同年だけどさ)のさばらせるより、機能的で合理的で。
 柾会長も安心して、他に余計な気ぃ回さなくて済むんじゃね。
 俺にまで打診してきたりさー、そう、はるとに声掛ける事もなかったんじゃねーの。

 水と油、ってワケでもないしな、柾会長と旭先輩は。
 近くに居ても遠くに居ても、お互いを食い合う事なく、常に良好な関係保ったまま今に至ってる。
 何がダメって事もないじゃん、2人で好きな様に学園乗っ取ったらいーんじゃね。
 『…今日も生徒会かー大変だな』
 『はいー…いえでも、俺はまだ、授業にフル参加させていただいているので、他の皆さまに申し訳ないです』

 ショボショボしながら笑って、何か最近、身体のちいささ加速してる様な、善良な1生徒の自由奪う事って必要なのかな。
 はるとはまだ笑ってるし、周りの雑音も大分マシになったけど、学園祭シーズン始まったら全部どうなるのか。
 その内、笑顔まで奪い取るんじゃねーのか。
 そうなったら、ウチのご主人様が乗り込んで来る可能性100%、俺自身キレる可能性200%。
 
 「大介!お前、ぼーっとし過ぎ!眉間に皺寄せる場面じゃねーっつーの」
 「たっ」
 ペットボトルの底で頭小突かれて、我に返った。
 悪どく笑う旭先輩に、曖昧に笑って「すみません」と謝罪した。
 「考えてる事、大体わかるけどねー」
 「…ウス」
 ファインプレーに拍手を送りつつ、読めない横顔を見る。
 
 「友達の事だろーま、気持ちはわかるけどねー」
 「………ウス」
 「俺だってあの子は可愛い後輩だけどさーバスケ部に欲しいって未だに想ってるしー」
 「…けど、何スか」
 「ぶっ、大介、反抗期なのな。俺に対してその態度!初めて見たわー超ウケるー」
 一際大きな歓声が響いて、苛立ちを宥める様に、コートを振り返った。
 2年の先輩がディフェンス振り切って、見事なパス連携でシュートを決めた所だった。 
 歓声を合わせながら、身の入らなさを誤摩化す様に大きく手を打った。

 「手ぇ叩く音、うるせぇっつのー!おざなりに部活するなら追い出すぜー?お前が今為すべき事は何だよ。友達の身を案じる余り、自分の立ってる場所や生活蔑ろにする事?あの子やお前の御主人様がそうしてくれって言ってんのー?だったら、その下らない人間関係を優先しろよ、退部覚悟でな。それ位、事態は切羽詰まってるって言える?
 あのさー、てめぇがまともに立ってねぇのに人の心配するとか、とんだ勘違いも甚だしいっつの。人の心配する事で我が事から逃げられるとか、我が事を先延ばしにできるとか、先ず無いからねー。わかったら返事!」

 言葉が、容赦なく突き刺さる。
 苛立ちが増すと同時に、このやるせなさは間違いなく、不甲斐ない俺の所為だってわかるけど、素直に認めるにはあまりに苦い。
 ギリギリ頷いて、また「すみません」と言った。
 旭先輩はふと、全部見通した眼差しを一瞬こちらに向け、微笑を刻んだまま、まっすぐに前を向いて。

 「いーじゃん、お前は。まだ始まったばかりでさー」
 「…え?」
 「あの子はお前が想ってる以上に多方面から守られてるし、後ろ盾も切り札もある。何だかんだ強いしね。周りが過保護にする方が、余程危ねーんじゃねーの。それこそお前の御主人様もお前も、一生面倒見る覚悟も無ぇクセに、同年のガキの分際であの子をどうにか守ろうって躍起になり過ぎ。良い機会じゃん、距離置けよ。お前ら、あの子に依存し過ぎ」

 まったく嫌味なく、本音で真意を突いてくるから反応に困る。
 微笑ったまま、旭先輩は目を細めた。

 「ある意味、平和で羨ましーわ。俺なんかー初等部から今に至るまで、ずーっとだよー?心配する間もなく次から次へ…何年経っても慣れねー。ま、あいつが卒業するまでこのままだろーって、覚悟はしてるけどねー。大事な友達が、我が事じゃない物事に忙殺されてる辛さ、俺は大介よりキャリア積んでるよ。もう辞めてくれとか、他のヤツが代われば良いとか、ねー」

 何も言えない。
 言えるわけがない。
 ただ、変わらない穏やかな横顔を見ているしかなかった。
 「てめぇの事で精一杯でいーけど、ガキだからね、俺達はー。けど、守りたいヤツが居るなら視界狭くすんなよ。先ずてめぇの『今』に集中しないと、大事なもの何1つ守れない。何が大事だったのかすら見失う。お前らに事情がある様に、俺らにも事情がある。お、交代!ほら、行ってきなー」

 甲高く鳴り響く、交代の合図の笛と同時に、トンと軽く隣から押し出された。
 交代のハイタッチをして、ぎゅっと拳を握り、首を振った。
 気合いを入れ直す為に、両頬を叩いて、審判役の先生に掲げられたボールを見据えた。



 2014.3.25(tue)23:27筆


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