5.大冒険2日目!旅立ちの前に、


 「では!いただきます」
 「……イタダキマス」
 昨日と同じ並びで、美山さんと朝ごはん。
 今朝はマッシュルームとパセリのオムレツ、キャベツと玉ねぎとソーセージの和風スープ、蒸籠で蒸した温野菜(ブロッコリー、プチトマト、じゃがいも、人参)に自家製のオニオントマトドレッシングを添えて、かりっと焼いたトーストにはバター、もしくは苺ジャムかハチミツをお好みで、美山さんにはフルーツジュース付き、あとはたっぷりのあったかいカフェオレに、グレープフルーツ入りヨーグルト。

 うむ!
 我ながらうまくできたのではないかね!

 オムレツを極めるには15年かかると言う…
 料理歴は子供の頃からだけど、まだその域に達していないながら、それなりに整った形、いい具合の焼き加減を掴めるようになってきた。
 もちろん、まだまだ修行あるのみ!!
 スープのキャベツもいい具合にとろけてるし、温サラダもほっこりと熱が入っていて、いくらでも食べられる。
 これだから蒸籠大好き〜…
 ドレッシングも味が馴染んでるな、しめしめ。
 そして朝はやっぱり、ほわんと甘いトーストがしあわせ!
 バターをぬった上に、半分はジャム、半分はハチミツと、欲張るのが俺のクセ、至福なんだよね〜!

 そろっと美山さんの様子を窺ったら、昨夜と同じように、黙々と口に運んでくれていた。
 よかった…!
 しかし、ほんとうにキライなものはないのかな〜?
 俺の視線に気づいたのか、美山さんが朝ごはんから目を離した。
 「……こんなに朝メシ食ったの、初めてだ」
 「あ、そうですか…?そうですよね…俺の実家の家訓で、朝ごはんはたくさん食べるべし!っていうのがあって…なんとなく、朝からきっちり食べたら目も覚めるし、調子もいいような気がするんです。でも食べきれなかったら遠慮なく残してくださいね!」
 「……食べる」
 「はい。でも無理はしないでくださいね?」

 こくっと頷いて、でも、フォークを握ったまま動かない。
 なにか言いたそうなご様子だ。
 「…………」
 「どうしました?」
 びっくりさせないように静かに聞いたら、ぼそっとお返事。
 「…………野菜が、美味い」
 「そうですか!よかったです〜蒸籠で蒸すと、野菜本来の旨味が増すので、そう感じるのかも知れません。スープの具材も1度蒸してから煮込んでるんですよ」
 「……朝から、凝ってるな」
 「いえいえ、蒸籠が素晴らしいだけですから〜」
 「……でも、卵も美味い」
 「そうですか!オムレツ修行中なんですが、お口に合ったなら幸いです!」

 修行?と首を傾げる美山さんに、魅惑のオムレツ世界を語りたかったけれども、そんなに時間もないし、奥が深いんですよ〜とだけ言ってみた。
 それから。
 トーストを目の高さに掲げて。
 美山さんが、意を決して、と言わんばかりに呟かれた。


 「……熊…?」


 「あ!気づいちゃいましたか?『はちみつプウ太』のポップアップトースター、昔買ってもらって、これがなかなかいい焼き具合で仕上がるので、もう手放せなくって…やっぱりトースターはカリっ・サクっ・ふわっが外せませんものね!まん中にプウ太の焼き色がつくのも面白いでしょう?」

 眠そうな愛嬌ある表情をした、はちみつ大好きはちみつ色の小熊、そのふっくらえびす顔の焼き色がついたトースト。
 それをしげしげと眺める美山さん。
 プウ太と、美山さん。
 美山さんと、プウ太。
 不思議と、違和感がない。
 違和感がなくて、なんだか、かわいくて、つい。

 「……っぷ…」

 途端に美山さんの目がつり上がった。
 「てめぇ…!!何笑ってやがる…」
 「い、いえ…なにも……」
 「肩震えてんじゃねーか…!」
 「いえいえ…!なんでもありません!!気管にパン屑が…ウォッホン!はい、もうだいじょうぶですとも!さ、美山さん、早く食べましょう!入学式ですよ!」
 半信半疑な美山さんを横目に、咳払いしてごまかしてから、再び食事に集中したのだった。
 


 2010-05-13 22:20筆



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