33.武士道ロック(4)by 吉河


 最近、険悪だ。
 チーム内が荒れてる。
 理由は知れた事、頭のお2人が神経昂ってんのも1つの要因だが、お母さんが俺らが揃ってんのにも関わらず、不安定な立ち位置でトラブルに巻き込まれてるからだ。
 こんなの武士道始まって以来だろうな。
 十八学園所属VSその他武士道、なんてのは。

 本来、頭と幹部が揃ってる学園派が当たり前に主軸、それが今や揺らぎ始めてやがる。
 けど、コイツらの気持ちは十分わかる。
 俺も下界に居たなら、例え返り討ちに遭おうが総長達に喰ってかかってただろう。
 どうなってんスかって。
 お母さんが本人の意思に全く添わない表舞台に、日毎引きずり上げられてんじゃないスかって。

 ほわほわ笑ってた、いつも。
 俺らのお母さんは朗らかで、でも厳しくて、でも優しくて、食堂を経営するんだって夢を語り、料理を作る目はいつも輝いていた。
 俺らはそれを、照れくさいような眩しい気持ちで見守っていて、このままずっと親しくしたい、お母さんの夢を、笑顔を守りたいって、チーム一丸で想っていた。
 それがどうだ。

 どんなイカレた場所であろうと、同じ学校に居る事は、この上なく喜ばしい事である筈だった。 
 お母さんが俺らの手の届く所に居る、それなら守るのは容易い筈だった。
 いつでも会える、いつでも話せる。
 近い距離に居れば、安心できるものだと勝手に想っていた。
 学外のヤツらも半ば本気で転入考えるぐらいだったのに。

 お母さんが元気で、いつも通り笑っていたのは、いつまでだったか。
 あんな腐り切った学園、お母さんに興味持つマトモな輩は居ないだろうと、ただ楽しく過ごせるだろうと高を括ってた、俺が浅はかだった。
 
 距離が空く。
 時間が経つのと並行して、距離が空いて行く。
 簡単に近付けなくなる。
 会いたい時に会えなくなる。
 少し前の方が不自由だと想っていた、まさかこんな事になるとは。
 極めつけは生徒会入り、しかも会長補佐とは、誰も予測不可能だ。
 
 今夜も荒れている、チーム内の小競り合いを視界の端に映しつつ、琥珀色の液体が入ったグラスを傾けると、照明に当たって、まるでお母さんの瞳の様に光を放った。
 細かな光を、ぼうっと見つめた。
 どうして今、この場に一緒に居れない?
 俺らはお母さんに多くの温かい光を貰ったのに、俺らに出来る事は何もないのか。
 どう動けば、お母さんの笑顔を守れる?

 勢いを増す小競り合いに思考を邪魔され、流石にカンに障り、立ち上がりかけた。
 それより早く、冷たい指にグラスを奪われた。
 何だと気づいた時には、小競り合いの真ん中にグラスは吹っ飛んでいき、床に液体諸共飛び散った後だった。
 「ちょっと出て来る」と姿を消した一成さんが、いつの間にか戻って来ていた、すぐ隣に立つ凍える苛立ちに、背筋が粟立つ。

 「…うるっせぇなぁ〜…お前ら、イイ子でお留守番も出来ねぇの〜?誰が騒ぎ出したのか知らないけど〜そのグラスみたいに成りたくないなら〜…大人しくできるよね…?」
 流石に静まり返ったその場を虚ろに睨み、割れた破片も意に介さず踏みつけ、定位置に去る姿に息を呑むしかない。
 誰よりも苛立ち、荒ぶっている。
 お母さんと出会う前に戻った様だ、一成さんは…

 とにかく、このままにしておくワケにはいかない。
 俺が動かないで誰が動く。
 できる事を地道に考え、行動するしかない。
 
 脳裏に浮かぶお母さんが、まだ笑顔である内に。



 2014.3.17(mon)23:50筆


[ 566/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -