29


 うまく言葉にならなくて。
 この気持ちを何と言ったらいいのか。
 合原さんはまっすぐに想いを打ち明けてくださったのに、俺は?
 友だちになりたいって仰ってくださった、それに応えるに足る人間じゃない。
 すくなくとも応えたいなら、この邪な想いを暴露すべきではないのか。
 何もかも隠したまま、合原さんとお話するにはあまりに失礼だ。

 でも、柾先輩への想いを明かすことで、嫌われたら?
 そういうことなら友だちどころか一生絶交したいって、完全にご縁が断たれることになったら。
 怖い。
 もたもたと、臆病な自分と格闘している時だった。
 「のわぁっ」
 「ぎゃ…!ちょっ、何してくれてんの?!」

 ふいに強風が発生したと想ったら、九さんで、合原さんと俺をまとめて抱きしめたかと想うと、わんわん泣き出してしまわれた。
 「お前ら…っ、最高ぉ…!!」
 「えっ」
 「はぁ?!ナニすっとぼけた事言ってんの?!離してよっ!つか泣く意味わかんねーっつーの」
 けれど九さんは合原さんが何を仰っても、わんわん泣かれるばかり、しばらくそのままの態勢となった。

 よしよし背中をあやしながら、人の身体ってあったかいなぁって、見当違いなことに心を動かされていた。
 「ひっく…っ、うえっ…く…コハルもっはるともぉ…わあん!!」
 「っち、何だっつーの。ガキか」
 「あ、合原さん…そんなにガンガン蹴ってはいけません、と想いますよ…九さん、どうなさいました?合原さんと俺がどうかしましたか」
 ひとしきり泣かれた後、まだ嗚咽が止まらない九さんを慰めながら、ハンカチで涙を拭ってはハナ紙で洟をかんでいただいて、と大忙し。

 急な大泣きで水分が不足してしまうと、合原さんに見守っていただくことにして、お台所をお借りしてお湯を沸かした。
 おお、流石は合原さんとますます尊敬の念が湧く、「HOTEL KAIDO」厳選のオリジナルティーが勢揃いではありませんか。
 ギフトでも大喜びしていただける紅茶の中から、セイロンを選ばせていただいて丁寧に入れ、更に温めたミルクを添えた。
 お茶を運んで戻ると、九さんは少し落ち着いたご様子だった。

 「合原さん、ありがとうございました。セイロンティーを使わせていただきました。よろしかったでしょうか…」
 「どういたしまして。好きに選んで良いって言ったでしょ」
 「はい、ありがとうございます。九さん、温かいミルクティー入れたのでどうぞ」
 「ウン…」
 「あらあら、綺麗な目がまっ赤になって…濡れタオルもお借りしたので、これで冷やしましょうね」

 九さんはちいさな子供のように、コクリと頷いていらっしゃる。
 「ん!お母さんのミルクティー、マジ美味っ!元々美味しい紅茶なのに、もっと美味しくなるなんて…」
 「えへへ、恐れ多いながらありがたきお言葉でございます。気合い入れましたので、美味しくできているなら幸いでございます」
 合原さんは美味しいを連呼しながら、キラキラした瞳でお茶を堪能してくださっている。
 お2方共お可愛らしいなぁ。

 和んでいる場合ではないけれど、想わぬお茶タイムにほっこりしてしまう。
 温かいカップを両手で包んでいると、俺も少し落ち着くことができた。
 「…はるとも、コハルもさ…」
 同じようにカップを手にしておられた九さんが、ぼそっと呟くように言った。
 「一生懸命なんだな」
 「えっ」
 「はぁ?」
 九さんの泣き腫らした目が、合原さんと俺を交互に見つめた。

 「すげー一生懸命で、2人共、超良いヤツじゃんか。2人共、まっすぐで…ちゃんと頑張ってる。だから、もーゴタゴタすんの止めて、仲良くしたらいーじゃん。ややこしい事ヌキにして、友達でいーじゃん。
 それじゃダメなのか?もっと時間要るのか?時間なんて、立ち止まってたら猛スピードで過ぎるじゃんか…待ってたらすぐ卒業じゃん。はるとはこれから生徒会で忙しーんだろ?会えなくなったら、気持ち離れたまんまじゃん。コハルはちゃんと謝ったし、はるとは優しいし、友達になれるよな。絶対、今決めた方が良いって…!そんで、オレも…友達になりたい…」

 想わず合原さんと顔を見合わせてしまった。
 九さんがとっても哀しそうに見えたから。
 お言葉ひとつひとつに、とても重いものが込められているように感じたから。
 何かあったのだろうか。
 例えば、時間はまだあると先送りにしていたことが、何らかの原因で取り返しつかなくなったとか?
 あまりに寂しそうで頼りない姿に、合原さんも絶句しておられる。

 お2方がこうして真摯に向き合ってくださったのに。
 俺がしらっと黙っているわけにはいかない。
 軽蔑されるかも知れないけれど、いつ戻って来るかわからない俺の帰りを待って、お話する時間を設けてくださった、そのお気持ちにもお応えしたい。
 俺はほんとうは、そんな風に想っていただける人間じゃないって。
 弱くて、邪なんだって。
 意を決して口を開こうとした、けれど合原さんの方が先だった。

 「…僕の話、まだ終わりじゃないんだよね。後1つだけ良い?」
 


 2014.3.8(sat)23:47筆


[ 562/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -