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うまく言葉にならなくて。
この気持ちを何と言ったらいいのか。
合原さんはまっすぐに想いを打ち明けてくださったのに、俺は?
友だちになりたいって仰ってくださった、それに応えるに足る人間じゃない。
すくなくとも応えたいなら、この邪な想いを暴露すべきではないのか。
何もかも隠したまま、合原さんとお話するにはあまりに失礼だ。
でも、柾先輩への想いを明かすことで、嫌われたら?
そういうことなら友だちどころか一生絶交したいって、完全にご縁が断たれることになったら。
怖い。
もたもたと、臆病な自分と格闘している時だった。
「のわぁっ」
「ぎゃ…!ちょっ、何してくれてんの?!」
ふいに強風が発生したと想ったら、九さんで、合原さんと俺をまとめて抱きしめたかと想うと、わんわん泣き出してしまわれた。
「お前ら…っ、最高ぉ…!!」
「えっ」
「はぁ?!ナニすっとぼけた事言ってんの?!離してよっ!つか泣く意味わかんねーっつーの」
けれど九さんは合原さんが何を仰っても、わんわん泣かれるばかり、しばらくそのままの態勢となった。
よしよし背中をあやしながら、人の身体ってあったかいなぁって、見当違いなことに心を動かされていた。
「ひっく…っ、うえっ…く…コハルもっはるともぉ…わあん!!」
「っち、何だっつーの。ガキか」
「あ、合原さん…そんなにガンガン蹴ってはいけません、と想いますよ…九さん、どうなさいました?合原さんと俺がどうかしましたか」
ひとしきり泣かれた後、まだ嗚咽が止まらない九さんを慰めながら、ハンカチで涙を拭ってはハナ紙で洟をかんでいただいて、と大忙し。
急な大泣きで水分が不足してしまうと、合原さんに見守っていただくことにして、お台所をお借りしてお湯を沸かした。
おお、流石は合原さんとますます尊敬の念が湧く、「HOTEL KAIDO」厳選のオリジナルティーが勢揃いではありませんか。
ギフトでも大喜びしていただける紅茶の中から、セイロンを選ばせていただいて丁寧に入れ、更に温めたミルクを添えた。
お茶を運んで戻ると、九さんは少し落ち着いたご様子だった。
「合原さん、ありがとうございました。セイロンティーを使わせていただきました。よろしかったでしょうか…」
「どういたしまして。好きに選んで良いって言ったでしょ」
「はい、ありがとうございます。九さん、温かいミルクティー入れたのでどうぞ」
「ウン…」
「あらあら、綺麗な目がまっ赤になって…濡れタオルもお借りしたので、これで冷やしましょうね」
九さんはちいさな子供のように、コクリと頷いていらっしゃる。
「ん!お母さんのミルクティー、マジ美味っ!元々美味しい紅茶なのに、もっと美味しくなるなんて…」
「えへへ、恐れ多いながらありがたきお言葉でございます。気合い入れましたので、美味しくできているなら幸いでございます」
合原さんは美味しいを連呼しながら、キラキラした瞳でお茶を堪能してくださっている。
お2方共お可愛らしいなぁ。
和んでいる場合ではないけれど、想わぬお茶タイムにほっこりしてしまう。
温かいカップを両手で包んでいると、俺も少し落ち着くことができた。
「…はるとも、コハルもさ…」
同じようにカップを手にしておられた九さんが、ぼそっと呟くように言った。
「一生懸命なんだな」
「えっ」
「はぁ?」
九さんの泣き腫らした目が、合原さんと俺を交互に見つめた。
「すげー一生懸命で、2人共、超良いヤツじゃんか。2人共、まっすぐで…ちゃんと頑張ってる。だから、もーゴタゴタすんの止めて、仲良くしたらいーじゃん。ややこしい事ヌキにして、友達でいーじゃん。
それじゃダメなのか?もっと時間要るのか?時間なんて、立ち止まってたら猛スピードで過ぎるじゃんか…待ってたらすぐ卒業じゃん。はるとはこれから生徒会で忙しーんだろ?会えなくなったら、気持ち離れたまんまじゃん。コハルはちゃんと謝ったし、はるとは優しいし、友達になれるよな。絶対、今決めた方が良いって…!そんで、オレも…友達になりたい…」
想わず合原さんと顔を見合わせてしまった。
九さんがとっても哀しそうに見えたから。
お言葉ひとつひとつに、とても重いものが込められているように感じたから。
何かあったのだろうか。
例えば、時間はまだあると先送りにしていたことが、何らかの原因で取り返しつかなくなったとか?
あまりに寂しそうで頼りない姿に、合原さんも絶句しておられる。
お2方がこうして真摯に向き合ってくださったのに。
俺がしらっと黙っているわけにはいかない。
軽蔑されるかも知れないけれど、いつ戻って来るかわからない俺の帰りを待って、お話する時間を設けてくださった、そのお気持ちにもお応えしたい。
俺はほんとうは、そんな風に想っていただける人間じゃないって。
弱くて、邪なんだって。
意を決して口を開こうとした、けれど合原さんの方が先だった。
「…僕の話、まだ終わりじゃないんだよね。後1つだけ良い?」
2014.3.8(sat)23:47筆[ 562/761 ][*prev] [next#]
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