27.友達
緊張、するなぁ。
まっすぐ自室へ戻るつもりだった。
柾先輩と旭先輩とお茶を飲んで、のんびりしていたら時間はどんどん過ぎて行って。
遂には旭先輩、バスケ部の皆さんから、何と校内放送を使ってお呼び出しされ、渋々去って行かれた。
同時に、今日はもう皆集りそうにないし、そんなに仕事もないということで、柾先輩から帰るように言われたんだ。
先輩曰く、今日付けで俺は生徒会入りイコール、則!特別寮へ移動らしく、俺が立ち会うまでもなく、優秀な寮管理業者の皆さまの連係プレーに因り、もう大方の引っ越しは済んでいるだろうとのこと。
役職に就く生徒ならではの、素早い対応なんだとか。
本来なら週末に引っ越しが望ましいだろうけれど、柾先輩の独断でいきなり決まったことなので、当日お引っ越しというドタバタさ、巻き込んで悪いなって頭を下げられてしまいましたよ。
それでも運んで遜色ないレベルの、大型家具の運搬だけで、細々した私物には流石に触れないから、週末目処に荷物をまとめつつ、当面はまたまた一成邸へご厄介になることとなった。
ともあれ、数日分の着替えや食料品などを取りに行ってから、一成に連絡するつもりだった。
それも過去の話、今現在、俺は合原さんの御宅に九さんとお邪魔しております。
同室者さまは部活でいらっしゃらないらしい、室内は静まり返っていた。
お可愛らしい合原さんのイメージと異なり、お部屋はとってもシンプルだった。
円を描くようにチンと座った、真ん中には十八学園ルームサービス名物らしい(今度武士道と一緒に頼んでみましょうねぇ)、ピザやポテトフライ、ブルスケッタなどお洒落なおつまみと、コーラが存在している。
「ウマーーー!はるととコハルも食えよー!超ウマいし!」
にっこにこの笑顔全開で頬張っておられる九さん。
「…っち、っるせぇーんだよ…知ってるっつーの」
なんだか低い呟きが聞こえたような、硬いお顔のままの合原さん。
俺は取り敢えず、いただきたいのは山々ながら晩ごはん前ですし、不思議な緊張感で手を出すこともままならない。
お話があると言われた。
親衛隊とは関係ないって、クラスメイトとしてお話したいって、何のことだろう。
1学期からずっと、合原さんにはご迷惑をおかけしている。
それを更に裏切るように、俺は合原さんがお慕いしてきた柾先輩に、複雑な想いを寄せていることを自覚している。
そのことじゃないのかな。
もしかして、気づかれてしまったのかな。
ただ忘れ去るだけの、一時の想いだから。
勝手に宝ものにして、奥深くに大事にしまっておくだけだから。
今は否定しないで欲しい、なんて、俺は我が儘すぎる。
ふいに合原さんが動き、想わず肩が揺れてしまった。
合原さんはがしいっとコーラを掴むなり、大胆にもごくごくと喉を鳴らして一気飲み!
「ぷはあっ!」
「あ、合原さん…?大丈夫ですか、いきなり一気飲みなんて…」
「コハル?!どーしたんだよ、喉渇いてたのか?!」
おろおろ見守る俺と九さんを、きりっと見渡した後。
合原さんはひとつ大きく深呼吸し、俺をまっすぐに見据えた。
「武士道様にはあまり時間をいただけないって言われてるから…先ず最初に言わせて」
「え?え?武士道さまとは…」
戸惑う俺の前、凛々しい眼差しが一瞬ふにゃっと歪んで、でもまたきりっと、男らしい様相になって。
「ずっと謝りたかったの。ごめんなさい、前陽大」
正座を崩さず、深々と頭を下げられて、目を見開いた。
「あ、合原さん…!どうしたんですか、急に!頭を上げてくださいっ!俺の方こそたくさん謝らねばなりませんのに!!」
けれど合原さんは、暫く頭を上げてくださらなかった。
2014.3.6(thu)23:59筆[ 560/761 ][*prev] [next#]
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