26.天使バルサンが奏でる狂想曲(13)


 ミキとケンカみたいになって、部屋飛び出してからメシ食ってぼーっとして。
 どうしたら良いのかわかんない。
 わかんないけど、はるとと話したいって思った。
 けど生徒会行くのは面倒くせーし、人がいっぱいいる所じゃなくて、昴すら居ない所で話したい。
 あー、はるとのケータイ、聞いとけば良かった!!
 話すついでにケータイも聞こうっと。

 とりあえず寮の周り、ウロついてたら会えるだろ。
 すげーまっ赤な夕焼けだなーなんて思って歩いてたら、コハルに会った。
 コハルは初めて会った時からケンカ売ってくるし、よく睨んでくるし、何か怖いヤツだけど、体育祭で良い所あるじゃんって知っちゃったから。
 はるとが転んだ時、一緒に応援した仲だし。
 声かけたらやっぱり睨まれたけど、コハルもはるとに会うつもりだって聞いて、じゃあ一緒に待とうって事になった。 

 はると、早く帰ってこーい!
 コハルは思い詰めた顔して話しかけ難いし、腹は減ったし、つかコハルって昴の親衛隊なんだよな?
 はるとにケンカ売るつもりなのか?
 じゃあオレ、絶対一緒に居なきゃダメじゃん。
 いざとなったらオレが止めなきゃな!
 はると弱そうだし、コハル強そうだし、オレが何とかしないと!

 それはそうとして、腹減ったなー。
 まさかはると、生徒会のヤツらと晩メシ食ってんじゃねーだろーな。
 有り得なくないよな。
 オレはお腹空かせて待ってんのにズルい!
 そう思った瞬間、ついに腹が鳴った。
 慌てて笑ってごまかしたけど、怖ぇえええ!
 コハルに超!睨まれちゃったじゃんか。

 もう帰って何か食いに行こっかな。
 何かつまんねーし、下界にでも下りよっかな。
 「あれ…合原さん、九さん…?こんばんは」
 その時、はるとが急にやって来た。
 「はると!遅いっ!!オレ、超〜待ってたんだからなっ!!」
 何でだろ、懐かしー!!
 そりゃそうか、夏休み中ずっと会えなかったし、今日だってすぐ生徒会行っちゃって、全然まともに話してねーもんな。

 思わず抱きついたら、はるとはキョトンとしてる。
 「お待たせしてすみません。大変恐縮ながら、お約束してましたっけ…」
 返事しようとしたら、コハルがべりっとオレとはるとを引きはがした。
 「お疲れ様、前陽大。何にも約束してないけど、少し話せないかと想って…待ってたら九も勝手に合流しただけ。時間があるなら、少し良い?武士道の加賀野井様と成勢様にはお話通してあるから、帰りは心配しないで良い。引っ越しの最中で申し訳ないけど…」
 え?
 え?

 「はると、引っ越すのかっ?!どこにっ?!」
 びっくりして大きな声出しちまったら、コハルは「はあああ〜…」と更にデカいため息を吐いた。
 どーでもいーけど、さっきからため息吐きっ放しだなあ、コハル。
 「…まぁ、お前に察しろって言う方が無理か…あのねぇ、前陽大は今日から生徒会の一員なワケ。役職就いた人間が一般寮に居たら、いろいろ問題でしょ?!考えてもみな、柾様が一般寮だったら、毎日大パニックで事件勃発しまくんだろ。当人の身の安全や、周りの精神衛生を保つ為にも、前に出る生徒は特別寮に入るの。こんなの贔屓もクソもないからね。わかった?!反論は許さない。時間が惜しい」

 納得いかない事は多いけど、こくこく頷いておいた。
 何せコハル、怖ぇもん。
 顔に似合わず怖ぇっつーか、十八ん中でも迫力あるっつーか。
 はるとは相変わらずキョトンとしてる。
 「お話、ですか…」
 「誤解しないで。親衛隊とか何とか関係ない。1クラスメイトとして…何て言うか、普通に話したいって想っただけ。疲れてるだろうし、無理強いはしない」
 あ???

 コハル、何か真剣っつか寂しそうっつか、はるとの前とオレじゃ態度が違う。
 「わかりました」
 それに答えて、にっこり笑ったはるとも、何かいつもと違う。
 どうしたんだ2人共っつーか、はると、そんな笑い方だったっけ?
 いつもニコニコしてるけど、もっとニコニコしてるっつーの?
 笑い方が変わった。
 いつもよりずっと、優しい顔だ。
 
 優しいのに、ちゃんと笑ってるのに、それは間違いなく良い顔なのに、じっと見てると何か泣きそうな心許ない気分になる。

 何だろう、この表情。
 コハルの部屋に行く事になって、後をついて歩きながら、オレは首ばっかり傾げてた。
 ケンカにはなりそうもない。
 けど、それよりもっと深刻なカンジで、やっぱり待ってて良かったって思った。
 しっかし、コハルの部屋かあ。
 はるとの部屋が良かったあ!
 引っ越しだか何か知らねーけど。
 何か食うものあるといーな。



 2014.3.5(wed)22:58筆


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