4.おはよう!狼ちゃん


 ブレザーとネクタイは、もうちょっと後でいいや。
 部屋を出て、キッチンへ戻り、持参したポップアップトースターとスープを温め始めたら。
 かちゃっと扉が開く、遠慮がちな音が聞こえた。
 まだ眠たそうな顔をした美山さんは、そのままぼーっとした様子で洗面所へ直行。
 おお、セットしてない髪型の美山さんも、全然カッコいいじゃないですか。
 男前は何しても男前なんだねえ…羨ましい!
 手にはちゃんと制服があったから、着替えて来られるんだろう。
 
 勢いのいい水音と物音に耳を澄ませる内、美山さんが戻って来られた。
 おお、もうすっかり起きたよっていう顔じゃないですか。
 キレイな赤い髪は、昨日よりもワイルドに立たせてある。
 そんな鋭いカンジもカッコいい、男っぽい。
 男前は何しても男前(以下同文)
 「……はよ」
 スープをかき混ぜつつ、そんなことを想いながら、俺から声をかけようと想っていた。
 でも、美山さんから声をかけてくれた。
 うれしくて、笑った。

 「おはようございます、美山さん!手はどんな具合ですか…?痛んだり腫れが悪化したりしてませんか?」
  美山さんは、俺の目の前で包帯と湿布を取り、ごつごつした手の甲をかざして見せてくれた。
 「完治。」
 「わー…早いですね!」
 何事もなかったかのような手の甲。
 それでもどこかに異常はないかと、じっくり・しげしげ観察していたら。
 「目、寄ってんぞ」
 微妙な表情と微妙な口調で、その手が、俺の額をささやかに小突いていった。

 「じろじろ見てすみません。異常は見られませんが、俺も美山さんもお医者さんじゃないですから…ちょっとでも違和感を感じた時は教えてくださいね!俺に言いにくかったら、校医さんやお医者さんに、」
 「てめぇは大ゲサなんだよ」
 おっと、2回目。
 2回目は確実なデコピンで、でもそれは加減されたやさしい力で。
 俺は笑った。
 気の所為かも知れないけど、美山さんもすこし、たのしそうに見えたのが余計にうれしかった。

 「美山さん、いつも朝ごはんはどうされてるんですか?」
 「………」
 「美山さん?」
 「………」
 「美山さ〜ん?あのですね、俺は気が長くて短いんで、いつまでだって聞き続けますよ〜?昨日みたいにいきなりまくしたてたりしませんから」
 「………いつも、テキトー」
 「そうですか。では、一緒にいかがですか?たくさん作ったので。今朝はなんちゃって洋食にしました」
 「(なんちゃって…?)…食う」
 「はい!」
 「……テーブル、拭く…?皿、運ぶ」
 「!はい…!お願いしますね。早速覚えてお手伝いしてくださるなんて、すっごくうれしいです…!」

 昨日の今日で自発的に動いてくれようとする美山さんに対して、じんわり胸に広がるこの感動はこれいかに。
 うれしいなあ…
 いい朝だ〜!



 2010-05-12 10:00筆



[ 56/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -