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 宝ものを、たくさんいただいた。
 たくさん、この手から零れ落ちそうなぐらい。
 それは、ピカピカ光る、かけがえのない言葉たち。
 一生忘れない。
 例え後々、否定されても撤回されても、何が起こっても。
 あの一瞬は全部、ほんとうだったから。

 それに柾先輩は、簡単に嘘を吐くような人じゃない。
 演技はしても、嘘は吐かない。
 旭先輩が「信じていーからね」って仰ってくださった。

 だから俺は、あのひと時を信じる。
 
 あんなにお忙しくって、あんなにたくさんの方々に慕われている人が、俺のことを見てくれていた。
 『陽大は縁の下の力持ち的な役割で、すげえ力発揮するだろ』
 それは俺のひそかな望みだ。
 前に出るよりも、後ろで人を支えたい。
 前に立つ人たちに憧れたり、尊敬しているけれど、俺は後方でこそ本領発揮できるってずっと想ってきた。

 『陽大の持ってる癒しパワーっつか雰囲気っつか、お前の人としての温かさって、この学園に今まで「在ったけどなくて」、すげえ必要なものなんだよ』
 学校に必要だって、言ってくれた。
 人として温かいって。
 そんなの、最高の褒め言葉じゃないだろうか。
 俺の心が震えるのには十分で。
 
 『陽大にしかできないことがある。お前のその温かさとか優しさとか、ひたむきな所とか…持ってる良い所を学園で活かして欲しい』
 俺にしかできないことがあるって。
 優しいとかひたむきだとか、恐縮ながら、先輩は俺のことをそう見てくださっている、ということだよね。
 俺にいいところがあるって、少なくとも認めてくださっているってことだよね。


 『俺には陽大が必要なんだ。協力して欲しい』


 どうしても熱いものがこみ上げて、頬を一筋だけ、涙が伝っていった。
 見上げた空は茜空。
 新学期早々、全開で始まっている部活動のかけ声、物音がのんびり響いている。
 涙の痕を、温いながらかすかに秋の気配もする風が撫でていった。
 もう、十分だ。
 好きな人から、人として尊敬している方から、一生もののたくさんの宝ものをいただいたのだから。

 これ以上、望むものはない。
 嬉しくて、幸せで、自然に口元が笑みを刻むのがわかる。
 好きな人から1人の人間として認められるって、何て幸せなことなんだろう。
 叶わない想い、だけどもういい。
 叶う叶わないじゃなくて、ちいさなことで立ち止まっていられない。
 前を向く、勇気をいただいてしまった。

 『この先もう人前で視線下げんな』

 『陽大の武器は笑顔だろ』

 『新しい物事に不安は付きもんだけど、てめぇにできねえ事は起こらない』
 
 『お前はいつも笑ってな』

 「…はい」
 柾先輩が言ってくださった。
 今まで笑顔が自分の武器だなんて、想ってもみなかったけれど。
 先輩が折角そう言ってくださったのだから、ほんとうに武器になるように、磨けるだけ磨いてみよう。
 笑顔の大切さはわかるもの。
 人がいちばん輝いて見えるのは、心からの笑顔だと想うから。

 もう下を向かない。
 生徒会だなんて、俺には一生縁がないと想っていた、華やかな場に立つチャンスをくださった。
 だからと言って前面に立つわけじゃなくて、俺の本領を活かしてできることがあるとするなら、すこしでも先輩のお力添えができるなら、一先ず頑張ってみよう。
 ひとつの貴重な体験として、しっかり学ばせていただこう。

 何が将来に繋がっているかわからない。
 一見、俺の夢と無縁に見えても、そんなのは自分の勝手な判断なだけ、何ごとだっておろそかにしていいものはない。
 とにかく一生懸命やってみよう。
 話はそれからだ。
 まったく向いていなかったら、先輩や皆さまから何らかのご対応があるだろうし。
 憂いている場合じゃない。

 この学校で、好きな人と出逢えた。
 その人に目をかけていただけたばかりか、温かい言葉までいただいた。
 学校を離れたら、接点がなくなる御方で、高校3年間なんて長い人生で見ればあっと言う間に過ぎ去ってしまうこと。
 それなら、叶わないことばかりに目を向けて塞ぎこんでいないで、僅かでも一緒に過ごせる時間を大切にしよう。
 柾先輩に、「そう言えば高校の頃、よく笑ってる後輩がいたなー」って、笑顔だけでも想い出していただけるように、俺は笑っていよう。

 やっぱり好きだな、好きになってよかったなって。
 温かい想いと同時に、どうしようもない虚しさも感じるけれど。
 願わくば隣にいたい、せめて視界の隅にでも入っていたいと想うけれど。
 ちいさくかぶりを振って、赤い空を見上げた。
 宝ものを得られただけで、どんなに幸せなことか。
 俺はこれを大切にして、歩いて行くんだ。

 もう悩むのはおしまい!
 これから何があっても、笑っていられる。
 不思議な程、強い想いに後押しされて、背筋を伸ばして帰り道を急いだ。



 2014.3.3(mon)23:40筆


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