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 ぽんぽんと頭を撫でた手が、自然に離れていった。
 見るともなく目が追ってしまう。
 今までこんなに意識したことなかったのに。
 手まで男らしいな、俺もこんな手がよかったなって羨ましく想ったことは何度もあるけれど。
 重症と言いますか、夏休み明けのパニック後だから仕方ないと言いますか、どうか真ん中には旭先輩にお座りいただきたい。

 大体、ソファーに3人並ぶ武士道スタイル、生徒会ではおかしくないでしょうか。
 いやいや、対面も困りますけれども。
 いずれにせよ、柾先輩の眼差しも手も元々凶器、今の俺にとってはNGでございます。
 気にしてはいけない、変に見つめてはいけない。
 想えば想う程、ドツボにハマっていくような。
 はっ、マロンさまにこんな情けない姿を見られたら、初対面早々に嫌われてそっぽを向かれてしまうのではないだろうか。

 マロンさま、俺の癒し…
 って勝手にお慕いしているだけだし、マロンさまにお会いすることなど生涯通じて有り得ない夢のまた夢だろう。
 むん?!
 いきなり両ほっぺたをつままれて、この御方は自ら危険行為を働くのが趣味なのかとがっくりきた。
 「…はらしれくらはい…(離してください)」
 「陽大が人の話スルーして、1人で百面相してんのが悪いんだろー」

 う、うう。
 だってあまりお顔を見たら危険だから。
 でもすべては俺が悪い。
 「…すみませんでした」
 「まーまー。お母さんも新学期早々疲れちゃったんだよねー。お茶美味しいから飲んで飲んで。疲れんのはわかるけど、今の内に昴に言いたい事ぶつけといた方がいーよ」
 「颯人は陽大の味方なのネ…」
 「昴…俺は2人共大好物だ!」

 旭先輩、救いの神!
 コントが始まったところでさっと身を引いて、すこし冷めた焙じ茶を飲んだ。
 落ち着いた、柾先輩の隣から逃れることもできて、より一層落ち着いた。
 頬に残る指の感触と体温は、気にしない気にしない。
 「浮気者の旭くんは良いとしてー。で、陽大が聞いてなかった話、もう1回言うけど。俺に聞きたい事も言いたい事もあるだろ。先に聴くから何でも言いな」
 「昴のイケメンっ!バスケ部の予算上げろー今度マック行こーつーか修旅の買い物どーすんのー?バスケ部の予算上げろー食堂の日替わりランチに半チャー半ラー唐揚げ入れてー」

 「旭の言いたい事はわかってるから!つか、バスケ部予算だけ2回言いやがって…それはまた後日な」
 「ちえー。つーかお母さん、こんなカンジでいーんだよ。今日の問題だけじゃなくて、日頃想ってる事とか、遠慮しなくていーからね」
 お茶目さんな旭先輩のウィンクに、強張っていた肩の力が抜けた。
 俺が1番言いたいことは、一生言えないけれど。
 旭先輩越しに見える柾先輩は、なんだかお話し易いように想えた。

 「…どうして、俺を生徒会に推されたんですか?俺にそんな大役が務まるとは想えませんし、学校中納得されていませんし…生徒会のお仕事がとても大変そうなこと、先輩方がすごく頑張っていらっしゃることはわかります。俺に何かできることがあれば、お手伝いしたい気持ちはありますが…お弁当シフトが関の山と言いますか…。
 俺は、今まで1度もこんな表立った活動をしてこなかったので、まったく自信がありません。いつも裏方で、それが楽しかったので…皆さんみたいにキラキラ感も皆無ですし、俺が入っていいことなどひとつもないと想います。補佐という役割がどういったものか、詳細を存じ上げませんが、他に適任者さんがたくさんいらっしゃると想います。できれば辞退したい、です…」

 しどろもどろの頼りない、男らしくない言葉の数々を、先輩方は打って変わって静かに聞いてくださった。
 最後の一言まで聞いてくださってから、柾先輩は微笑った。
 冷やかしでも嘲りでもない、バカ笑いでもない穏やかな微笑に、顔に熱が集って、慌てて手元のお茶に視線を向けた。
 柾先輩のお側にいること自体、俺には不可能なんですよ。
 ワンクッションの旭先輩を挟んでこれだもの。

 「生徒会だって見世物みてえに目立ってるけど、実質裏方なんだぜ」
 「えっ」
 「陽大は縁の下の力持ち的な役割で、すげえ力発揮するだろ。そういうのって、誰もが前へ前へっつー主張激しいウチの中では極めて貴重だし。気ぃ荒い武士道とかバスケ部とか3年とか、四角四角した風紀とか親衛隊まで、お前に一目置いて馴染んでる。陽大の持ってる癒しパワーっつか雰囲気っつか、お前の人としての温かさって、この学園に今まで『在ったけどなくて』、すげえ必要なものなんだよ」

 先輩のまっすぐな眼差しに捉えられて。
 頬が熱いのに、目を逸らせない。

 「今まで1度も前に立った事がなけりゃ、それは不安も多いだろうけど。別に俺らみてえになりきって演技しろっつってる訳じゃ無え。んなのは俺らがやるから良い。陽大にしかできないことがある。お前のその温かさとか優しさとか、ひたむきな所とか…持ってる良い所を学園で活かして欲しい。どうしたって目立つなら、1番目立つ場所に立てばその内、外野も黙るようになる。やってみて無理ならすぐ辞めて良いし?俺には陽大が必要なんだ。協力して欲しい」



 2014.3.2(sun)17:27筆


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